第3話 アーロンの思いと、マルティナの料理
▷▷▷▷アーロン◁◁◁◁
私はアーロン。
17歳、男性。
サングラニト王国の勇者パーティーでサポーターをしている。
サポーターと言っても、攻撃や魔法の補助ができる訳ではなく、傷ついた仲間に回復薬を渡したり、荷物を持ったりするのが一般的な役割だ。
このパーティーでの私は、マルティナ様が戦いで消費した体重を増やすため、直ぐに食べ物を渡すことが1番の役割だった。
しかし、それももうできない•••。
今、目の前でマルティナ様はパーティーを追放され、拠点としている屋敷から出ていったところだ。
あまりの出来事に放心してしまい、止めることもできなかった•••。
『アーロン、本当に申し訳ないが、今日限りでパーティーから追放としたい』
『それで、もしよければだが、今後は私の•••』
あの後、マルティナ様は何と言葉を続けようとしていたのか•••。
きっと、『今後は私の伴侶になってくれ』そう言いたかったのかもしれない。
僕の答えはもちろん、イエス、だ。
性別なんて関係ない。
この勇者パーティーで、何度も何度もマルティナ様に助けられ、優しい言葉をかけられ、いつしか僕は恋に落ちていたんだ。
マルティナ様に触れたくて、危険を承知でいつもすぐ真後ろでサポートするようにしたくらい、大好きなんだ。
「やっと、目障りなおデブがいなくなりましたわ」
「本当によかったです。いつもミーシア様を変な目で見ていましたから」
「私のこの美しい顔を見たい気持ちは分かりますが、おデブは論外です」
ミーシアとアリナタは、マルティナ様のことを馬鹿にし、愉快そうに笑っている。
マルティナ様がいなくなったのは、こいつらの所為•••。
「笑ったら小腹が空きましたね。アリナタ、いつものシュークリームをお願いできるかしら?」
「シュークリームですね。では、リナ、お願いします」
「•••しゅーくりーむ、でございますか??」
リナと言うのはこの屋敷の使用人だ。
リナはシュークリームのことが分からず、執事のマイルスにも聞いているが、知っているはずないだろう。
「ミーシア様、申し訳ありません。シュークリームと言うお菓子はご用意しておりません」
「なら、買ってきてちょうだい。ここは王都よ。何でも揃うんだから」
「ミーシア様。私もリナも王都中のお店を把握しておりますが、そのようなお菓子は見たことも聞いたこともありません」
「な、何ですって!!」
ミーシアはお姫様とは思えないほど取り乱し、その顔は焦燥と怒りに満ちていた。
それもそのはずだ。
あのシュークリームは、王都で売っているどんなお菓子も足元に及ばないほどの美味さ。
初めて食べた時のあの衝撃、今でも覚えている。
「ないって、今まで普通に用意されていたではありませんか!?」
「•••、申し訳ありません。存じ上げません」
「くっ、分かりました。もう、結構です。少し早いですが夕食にしましょう。ハンバーグをお願いします」
「は、ハンバーグ•••??」
ハンバーグという料理名に、リナとマイルスはお互いに顔を合わせて確認するが、首を横に振っている。
当たり前だ。
「なっ、ハンバーグも作れないんですか!?なら、カルボナーラは!?トンカツは!?」
「•••」
そう、当たり前•••。
なぜなら、今出てきた料理は全て、マルティナ様の逞しくも美しい手から作り出された料理なのだから。
マルティナ様は、スキルで異世界のメニューを作ることができると言っていた。
強いだけでなく、多種多様な料理までできるなんて、なんと素晴らしいお方なんだろうか。
「アーロン様、アーロン様!!」
マルティナ様の事を考えていた私を、ミーシアの声が現実に戻す。
「何でしょうか。ミーシア様」
マルティナ様の追放で呪ってやりたい程苛立っているが、相手は一国の王女に対し、僕は平民。
怒らせれば不敬罪も考えられるため、怒りを押し殺して対応する。
「アーロン様。いつも鞄からシュークリームを出していませんでしたか?もしや、アーロン様がお作りに??」
「いいえ。鞄から出したのはマルティナ様から頂いたものです。それと、シュークリームやハンバーグを作っていたのも僕ではなく、マルティナ様です」
「「なっ!!何ですって!!」」
ミーシアとアリナタは勢いよくその場に立ち上がり、その反動で座っていた椅子が後ろに倒れた。
「そ、そんな•••」
「あの料理が食べられない•••」
2人はあまりのショックにブツブツと話しながら、自身の部屋に入っていった。
大袈裟な反応に思うかもしれないが、この世界の料理は不味い。
それは、王族向けの料理であっても同じだ。
基本、素材をそのまま焼くか煮るだけであり、マルティナ様のような臭み取りやあく抜き、そういった下処理の工程はいっさいない。
味付けも塩味のみで、マルティナ様のような多種な味付け方法もないのだ。
僕もマルティナ様の料理を食べる前は、料理はそんなものだと、特に不味いとも思っていなかったのだが、マルティナ様の味を知ってしまった今、普通の料理は食べれたものじゃない。
もう、マルティナ様の料理は食べれないのかな•••。
はぁ〜。
僕は深いため息をつくと、2人のように部屋に戻った。
その日の夕食は、王族専属料理人が腕を振るったものだったが、3人とも殆ど残したのであった•••。
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