既望 <前編>

十六夜いざよい

望月ぼうげつを過ぎて出ることから既望きぼうとも呼ばれる

「いざよう」とは「ためらう」という意味


―――――――――――――――――


 私が二十代になった頃、世間では個人のホームページや日記ブログが流行っていました。

 知人同士で繋がるSNSなどはまだ出現しておらず、初歩的なHTMLを使って、横に流れる文字、閲覧者数のカウンターの設置、自分の撮った写真を壁紙にするなど、自由な空間を作ることに夢中でした。

 こだわりだすと、メニューページのどこかに裏サイト(ただの隠しページ)に繋がるハイパーリンクを忍ばせて、見つけた人は自作の小説や詩などを読める仕様を作ったりもしました。


 ネット空間に『第二の部屋』ができると、訪問してくれた人たちと交流を取りたくなったので、無料のレンタルチャットルームを使うことにしました。


 ホームページのデザイン改変や写真のアップ、とりとめのない日記の更新など、毎日どこか変えると、迷い込んだ人たちがチャットルームに入って話しかけてくれるようになりました。


 定期的に来訪する人たちは夜十時をピークに、多いと十人ほど集まりました。

毎日話していたので、参加者同士がお互いの入室時間を把握するくらいには仲良くなりました。


 参加者の中に『***suke』さんという男性がいました。


 どこに住んでいるかまでは聞いたことないですが「砂ずりが好き」とか「なんしか焦るわ」という言葉が出てくるので、関西の人だと思いました。

彼は毎回、夜十時前後に入室すると深夜まで話し、そのまま寝落ちして無反応になる人でした。


その男性が十一時過ぎても入室してこない日がありました。


メンバー内で「今日は来ないのかな。珍しいね」と会話していたところ、三十分ほど経ってから***sukeさんの入室ログが流れました。


「今日遅かったね! どうしたの」と他のメンバーが声をかけると

「ちょっと聞いてほしいことがある」

と、いつもとは感じの違う言葉が返ってきました。

どうしたどうした、とメンバーが注目する中、メッセージを流し始めました。



ごめん、俺一人じゃ怖くて。

誰かに話さないと頭がどうにかなりそうで――……

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