晦 <前編>
新月
「つごもり」ともいう
「つごもり」は「つきこもり」が転じた
月が姿を見せないのでこう呼ばれた
―――――――――――――――――
私が十代最後の
その年の夏に免許を取得した私は、友人と二人で
「女二人だけで、夜の山道へ行くなんて危険だ」と
大きな川沿いの国道をまっすぐに
「帰り道には、別の道を行こう」と国道から外れた
その
タイヤが
不安定で狭い砂利道をさらに
道は左方向にカーブしていたので、竹藪が道の先を
「見通しの悪いところだ」「カーブミラーも外灯も暗すぎて役に立たない」「次にコンビニを見かけたら休ませて」など話していたら、竹藪の影から、血にまみれた人が飛び込んできました。
友人は
車のライトが照らす範囲に、人は見えませんでした。
人間って、
「……消えた?」
実際は一分も
「わたし、……
友人の声が震えていました。
「いや。……ないよ」
ぶつかった衝撃なのか急ブレーキの衝撃なのか、私には区別がつかなかったです。
「なんで、いないのォ……」友人は泣き出しました。
「まって、まって。こっちは速度落としてたし、向こうから飛び込んできたんだから。……まだわからないよ」
車と歩行者の事故の場合、ほぼ
頭ではわかっていても、友人を落ち着かせたい
「とにかく、……確認しないとまずい、かな」
恐怖と緊張の中、必死に言葉を
「外に出るのは、ぜったいいやっ!」
友人は涙ながらに声を
運転していた立場からしたら、この状況は耐えられないでしょう。
私も怖くて嫌でしたが、このまま発車することもできないので、しぶしぶ助手席を降りました。
エアコンで温められていた車内から
竹藪が強風に
もしも、ここに一人取り残されることがあれば、気が狂ってもおかしくないと思いました。
車の前方から運転席側を通り、後ろを確認する形で車体の回りを見たところ、異常は見当たりませんでした。
人が倒れている様子や、へこみが見られなかったとなると、下を確認しないと、発車するわけにはいきません。
最悪の想像が、現実に迫ってきました。
助手席のドアノブに左手をかけては、引っこめてと、二回ほど
右手に
私は
なにもありませんでした。
なにもないということは、なにも起こってなかったわけで。
急いで立ち上がり、
――…セ……ン
背後の竹藪から、
――……ィ……セ…ン
明らかに人、男の声でした。
――………マ……ン
頭の中は
『ここで振り返れば、お約束のような恐怖体験に出くわすのだろうか』
『わざわざ背後に回り込んで、何がしたいんだろう』
おかしなことに、恐怖感情が
『今すでに怖い。どうせ怖いなら、確認して怖がりたい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます