16.帰還パーティーとエピローグ。


ひと通り浄化を終えて王都へ帰ると、王様から労いの言葉をもらった。聖女帰還のパーティーとやらも開催されるらしい。



「この、ドレスを、着ろと……?」


「うん。用意しておいたから。」


「え、ええー……。」



目の前にあるのは、艶々した薄灰色とすべっすべの肌触りが神ってるホワイトが上手いこと融合したドレスだ。ウェディングドレスか! って言いそうになるけど、白は聖女の象徴だっていうからまだわかる。けど、この薄灰色は明らかにジークさんの色だよね? え、このドレス着たら婚約者確定しちゃったりするんじゃない??



「さあ、聖女殿の着替えを。」


「「かしこまりました。」」


「えっ、ちょ……」



ジークさんが部屋を出た瞬間、メイドさんたちに囲まれて、お風呂に入れられ体を磨かれ、つるつるのすべすべのつやつやに仕上げられた私は、コルセットをギッチリ締められてジークさんのドレスに身を包んだ。



「とてもよく、お似合いです。」


「そう……そうね、確かに、素晴らしい……ですね。」



メイドさんの言葉を否定することはできなかった。


自分で言うのもなんだけど、程よく露出された胸のラインも、キュッとくびれたウエストも、そこから広がる白と薄灰色のドレープも、散りばめられたキラキラと輝く宝石も、すべてが計算し尽くされているようにきれいに鏡に映っている。



「うん……間違いないね。」


「ジークさん。」


「とても美しい。」


「ふふ、そうですね。ありがとうございます。」



その後、パーティー会場では王様の挨拶から始まり、私はずっとジークさんにエスコートしてもらっていたんだけど、やたらと「おめでとうございます。」とか「お似合いです!」とか「これでこの国も安泰ですな。」とかいった言葉がたくさん聞こえた。



「聖女ヨリコ。ジークフリードの贈ったドレスを着てきたということは、ついに婚約を受け入れたのだな。」


「……そうじゃないかなって思ってました。」


「まずは婚約式だな。いつにする?」


「そうだね兄上。早い方がいいかな。悪い虫が湧くといけないから。」


「おお弟よ。盛大な式にしよう!」


「何でそうなるんですかっ!」



やっぱり、ドレスを贈るのは婚約者にだけだし、贈られたドレスを纏うということはだった。うっすら気づいてはいたけど、どうしようもなくない? 着る一択だったよね?


それから私は、まだまだ結婚の意思はないと言ったんだけど、それなら婚約だけでもとゴリ押しされて、このままだと頷いてしまいそうだったから、宴もたけなわと城をあとにした。もちろんジークさんは送るよって言ってくれたけど、丁重にお断りして、会場にいた顔馴染みの護衛騎士ディーノさんにお願いした。「痴話喧嘩に巻き込まないでくださいよ。」って呆れた顔して言われたけど、痴話喧嘩じゃありませんから!






そして――



久しぶりに帰ってきたパン屋さん。


住居部分の扉を遠慮がちに叩くと、おかみさんが開けてくれた。



「おかみさんっ!!」


「ヨリコ、おかえり。お疲れさま。」



変わらない笑顔で温かく迎えてくれた。







「おや、ディーノも一緒かい?」


「えっ?」


「聖女殿の護衛で。」


「えっ!」


「お茶くらい飲んでいきな。」


「そうだね。少しお邪魔するよ。」



なんとおかみさんの、騎士団にいるって言っていた息子さんがディーノさんだった。








瘴気ポイントは、場所を変えて出現する。今回、国中の浄化を半年かけて行った。今後は、また現れるだろうポイントにその都度行くことになるらしい。

私が「出動要請が来るまでは普通に過ごしたい」というと、王様はそれを許可してくれた。

なので、また聖力を必要とされる時までは、パン屋さんのお手伝いをして、家具をクラフトしてギルドで売って暮らしていく。


資金を貯めて、お店を出すのが夢だ。


たくさんの、優しい人がいるこの街で。






「ヨリコ、私もいるよ。」


「……もう違和感ありませんね。」


「ははっ、嬉しいよ。婚約者どの?」


してませんっ!!」







こうして聖女ヨリコは、異世界で仕事に恋に忙しく、楽しく暮らしましたとさ。







おしまい




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。 井上佳 @Inoueyouk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ