13-2.便利な魔法があるようです。


その日の夜。


お城からの帰り、私はジークさんに馬車で送ってもらった。公爵様の馬車はとても乗り心地がよかった。サスペンションが効いているのか、石畳の上を走っているのに振動がほとんどない。



「すごいですね。」


「ああこれは、振動吸収の魔法がかかっているんだよ。」


「まほう! こんなところに使われているとは……。」



そういえば、私はMPがゼロなんだけど、MPの設定があるというのだから魔法があるということだ。



「ジークさんは、魔法が使えますか?」


「ん? うん。使えるよ。」


「そ、その、たとえばどんな?」


「そうだね、得意なのは攻撃魔法だけどあまり使う機会がなくてね。集音や消音なんかはよく使うよ。」


「へー……?」



その辺の討伐依頼は、剣一本で済むらしい。魔法まで使う必要がないそうだ。

しかし、集音に消音って、それ、もうどこかの隠密の人だよね? 忍者的な。


その辺りは深く聞かないでおくことにしよう。



こんな魔法があるよ、こんなスキル持ちがいるよっていろいろ教えてくれて勉強になった。


そうしてパン屋さんまで帰ってきたら、ジークさんが中まで送るよってわけのわからないこと言うから全力でお断りした。



「あ、でもちょっと待っててください。」


「うん?」



私はパン屋さんの裏の階段を登って部屋に入ると、箱にしまっておいた虹色の真珠のひとつ玉を取り出した。



「お待たせしました。」


「ううん、いいよ。」


「これ、今日のお礼に受け取ってください。」


「これは……?」



帰る前、王様に聞いた。


街で私とはぐれてからすぐ、城に連れ戻されたのではないか、犯人は召喚の儀式を取り仕切って失敗したジャラン王子ではないか、とあたりをつけて来てくれたんだって。

王様は、事情を聞いて王子がいるところまで案内したのだ、と言っていた。



「来てくれて、ありがとうございました。ジークさんがすぐに気づいてくれたから、何もされずに済みました。」


「ヨリコ……。」



ジークさんは、嬉しいような、悲しいような微笑みを私に向けた。



「ううん、そもそも私が離れたから君がこんな目に遭ったんだ。ごめんね……。」


「いえほんとうに、あまり怖くなかったし、割と大丈夫そうでした。でもジークさんが探してくれなかったら、もしかしたら城で監禁とかされちゃってたかもしれないので……これはお礼です。」


「……そっか。……うん。これは、虹色の彩花を使ったの?」


「はい。ジークさんが採ってきてくれたもので。」


「見事な真珠だね、すごくきれい。……ふふっ、何日もヨリコに会えなくてつらい思いしたけど、採ってきた甲斐があったよ。」


「はは、そうですね。毎日顔を合わせていたのに、あの時は三日も?」


「いや、四日だね。」


「四日でしたか。……心配しました。」


「そう……。寂しかった?」


「それは……秘密です。」


「ふふ。……そっか。」



真珠を持った私の手を握ったままのジークさん。




「今日はこれで失礼するね。名残惜しいけど。」


「……はい。ありがとうございました。」


「また、明日。」


「ふふっ、また明日。」



そして繋がっていた手は離れた。

ジークさんは、私が部屋に入るまで見送ってくれた。



私が戻ったことに気づくと、おかみさんが「遅かったね。」と様子を見に来てくれた。

今日あったことを全部話したら、おかみさんはただその事実を受け止めて、「大変だったねえ……。」と背中をさすってくれた。



もう会えない日本にいるお母さん。元気かな。

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