7-2.パニクル・ビオーテに見られていました。
「私はジークフリード・ディー。この国で公爵位を賜っている。」
「こ、公爵?」
突然何を言い出しちゃっているんですかジークさん。
公爵といえば、ほぼ王族の人、という認識でいいのかな? ちゃんとした爵位なんて……日本でよく読んだ創作物の中の爵位しか知らないです……。
「君が召喚されたとき、あの場に私もいたんだ。」
困惑する私に、優しい声で説明してくれる。
「すぐに助けられなくて、ごめん。あのあと追いかけたんだけど、私より先にパン屋のおかみさんが君を保護してくれて。それならそれでいいかなって。」
「ジークさん……。」
「私は、貴族というのを隠して裏で動くような仕事もやっていてね。それが冒険者ジーク。君を見守るにはちょうどいいと思ってギルドで接触したんだ。」
「そう、だったんですか。」
公爵が冒険者っていうのはよくわからなかったし、裏で動くっていったい何するの? って知らない方がよさそうなことは教えてくれなくてよかったのに。見守ってくれてたっていうのは、心強かったけど。
「そうしたら君は、スキルを持っているみたいだし、アイテムボックスまで使えるっていうし、さらにはギルドのあのテーブルに着くと体力が回復するとか、パン屋のパンを食べると病気が治るとか噂になり始めて……。」
「す、すみません……?」
そうか、サラヤおばあちゃんの体の調子が良くなった気がするというのは、たぶんリメイクしたパン棚に治癒効果があって、そこに置かれたパンを食べたからなんだろう。
「あ、でも、ジークさんも見てたなら知ってると思いますけど、私お城で鑑定されて聖力がないからって追い出されたんです。」
「それな。自分より高レベルの相手は鑑定してもちゃんとしたデータ見れないんだよ。」
「えっ、そうなの?」
ヘルハルトさんが教えてくれた。
「ヨリコはレベル22だろ? この世界にはなかなかいないけど、なんも訓練してないとだいたいが年齢イコールレベルなんだ。ステータスはそれぞれ違うけど。ちなみに王子は20歳。年始に盛大に成人のお祝いしてたから間違いない。」
「王子……王子なのに訓練とかしてないの……?」
「……あの子は努力が嫌いでね。」
ジークさんが残念な顔をして言った。
しかし驚いた。
鑑定できていなかっただけでほんとうは、間違いなく聖女の召喚ができていたってことか。それはそれでよかった、のかな? いやでも私、散々な目にあったよね。
「ヨリコはどうしたい?」
「どう、とは?」
「こちらの都合で呼び出して、放り出してしまった。元の世界に返してあげることは、できない。」
「帰れない……。」
やっぱり、帰れないのか。
希望した会社に入れて、新社会人として頑張ろうってときだったのになぁ。
「このまま街で暮らすこともできるし、きちんと鑑定し直して聖女として暮らすこともできる。」
「聖女は、いやです。お城の人は、優しくない……。」
「そうだよね、ごめん……」
「あ、ううん! ジークさんは優しい! ジークさんは好き。」
「えっ、好き?」
「えっ?」
「えっ?」
バチッと目があってしまった。なんか恥ずかしいこと口走った気がする。
「あ、や、ほら、イケメンだし、優しいし、つ、強いし、イケメンだし、ひと、人として! いい人ってこと!」
「うん……わかった、わかったよ。」
「イケメンって2回言ったな。」
ヘルハルトさんそこはスルーして!
「ありがとう。私もヨリコのこと好きだよ。一生懸命だし素直だし、たくさん頑張ってて、それにとても可愛いし……。」
そんなこと言われたら照れるぅぅ……ってあれ? ジークさんこそ顔真っ赤。照れ、てる? イケメンなんて何百万回も言われてそうな顔してるのに。
「それは置いておいて。ではヨリコさんは、このまま街で暮らすのを希望するということでいいな?」
「あっ、はいっ、それでお願いします。」
「では、我々も協力しよう。」
「ありがとうございます!」
ギルドの協力があれば力強い。あのお城に行くより、慣れて楽しくなってきたパン屋の仕事と、家具職人スキルで家具をクラフトしておかみさんに恩返しできるくらいのお小遣いを稼げれば……ってあれ? 治癒効果付いてるのはまずいのか。どうしよう。
「あの、ここで暮らすのに、家具を売ってお小遣いになればいいなと思うんですけど、治癒効果はまずいんですよね?」
「そうだな。わずかな効果でも気づく者は気づくだろう。」
「今まで無意識で付与していたんなら、意識的に付けないようにできるんじゃね?」
「ああ、確かに。やってみます。」
「そうだな。それで問題なければ、ここの貸しスペースを使って売るといい。」
「ありがとうございます!」
確かに、ヘルハルトさんの言う通り無意識で付与していたとしたら、治癒効果無し! ってイメージに加えたらそうなるかもしれない。帰ったら試してみよう。
「ではこの話は、ここだけでのことということで。皆、いいな。」
「へいよ。」
「了解です、ギルド長。」
「うん。異論はないよ。」
ヴェッセルさん、ヘルハルトさん、リャラスさん、そしてジークさんが頷いてくれた。
「ありがとうございます! では、家具を作ったらまた持ってきますね。」
「ああ。待っているよ。」
治癒効果付きのカラーボックスは仕舞って、また新たに作り直して持ってくることになった。
「ヨリコ、送っていくよ。」
「えっ? や、いいですよ。」
「そういわずに。今日は休みだろう? そろそろ昼食の時間だ。今日の記念に一緒に食べよう。美味しい煮込み料理の店があるんだ。」
「煮込み料理!」
「行こう?」
「はいっ! 行きます!」
「ふふっ、たくさん食べようね。」
そうして、ヴェッセルさんとリャラスさん、ヘルハルトさんに挨拶をして、煮込み料理に釣られた私はジークさんと一緒にギルドを後にした。
・
・
・
皆が去ったあとの廊下に、1人の男が佇んでいた。
「聖女……? あの女が……?」
もしそれがほんとうなら、ものすごい手柄じゃないか?
俺はビオーテ伯爵家の次男。家督は長男が継ぐことになっているから仕方なく騎士団に入った。毎日嫌々働いてる。
あんまりちゃんと聞こえなかったが……今聞いた話がほんとうなら、さっきの女が召喚された聖女で、街に隠れ住んでるってことだよな?
だったら、それを上に報告したら、もんのすごい手柄になるんじゃないか?
やべえ。
騎士爵もらえるかも。
騎士爵は一代限りの爵位だけど、あるとないとじゃ大違いだ。爵位ある家から嫁がもらえる可能性がある。もしその家が、本家とは別に領地を持っていたらそれが貰えて、いいとこ子爵くらいになれるかもしれないんだ。そういう家は結構あるからな。
とにかく、騎士団長に報告だ。
ビオーテ伯爵家の次男パニクル・ビオーテが聖女を見つけた、と。
パニクル・ビオーテが! 手柄を挙げたと!!
そしてパニクル・ビオーテは、走り去った。
ちゃんと聞こえてないのに何を報告するんだパニクル・ビオーテ。
そんなことくらいで騎士爵はもらえないぞパニクル・ビオーテ。
騎士なら剣を握って功績を挙げようパニクル・ビオーテ。
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