7.カラーボックスって便利ですよね。
「クラフト!」
-ボボボボボボォン
家具に向いているのは、硬くて靭性があるブナやカエデ、ウォルナットなんかの広葉樹だけど、アイテムボックスには最初から杉や檜も入っていた。日本人には馴染み深い杉! それを使って私は、日本ではお馴染みのカラーボックスを量産してみることにした。
「うん、なかなかいい感じ。」
組み合わせて使えるように、二段や三段、四段五段のものも作った。棚板は稼働できるやつで。
「杉の本来の色と木目がすてきだから、色いらないかな……?」
カラーの練習したかったんだけど、赤とかピンクとか緑とか。それだと台無しになりそうなので、せっかくの風合いを生かすためにステインを塗ってウォールナットに仕上げたような色をイメージしてみた。
「カラー!」
-ビョビョビョビョビョンンッ
きれいな茶色になった。彩花、便利だな。彩花とは色のついた花の総称で、それぞれパンジーとかチューリップとかの花の名前とは別に、染色に使う職人は『彩花』と呼ぶらしい。
カラーの原料になるのは花ならなんでもいいらしく、採取依頼で何色もの花を採ってきてもらったのでだいたい何色でもいけそうだ。組み合わせもありで、たとえば白と赤があればピンクも作れる、といった仕様だ。
(これなら木目もきれいに見えるしこの世界でも受け入れられそうだし、もう何色か作ってみよう。)
私は、先ほどと同じくステインを塗ったイメージで、マホガニー調の色とメープルっぽい色と、黒でカラーボックスを仕上げた。
「よしっ、さっそくギルドに持って行こうかな。」
私はこの何度目かの休日に、出来上がった棚をアイテムボックスに仕舞ってギルドへ出かけた。
・
・
・
「ヨリコちゃんはこっちね。」
「えっ?」
受付でいつものお姉さん、リャラスさんに挨拶したら、ギルドの奥の部屋に通された。
アイテムボックス持ちも内緒ね、という話をしていたから気をつかってくれたようだ。
「ありがとうございます。」
「いいのよ。それで、棚が完成したのね?」
「はい! 力作です!」
私はさっそくカラーボックスを取り出して並べて見せた。
二段から五段までの4サイズを各色でまとめて置く。上に積んだりもできるし、横に倒して横長でも使える。棚板は好きな位置で留められるし、希望があればカスタムパーツで扉をつけることも可能だ、と説明した。
「すごいのね! 棚なんて、ドンと置いて終わりかと思っていたけど、これならいろいろな使い方ができるし、飽きないわ!」
「へへへ。ありがとうございます!」
「素晴らしい発想ね。これはぜひ、売り出してみたいわ。」
棚を眺めるリャラスさんに、こういう組み合わせで〜と積んだり横にしたりしながら使用例を組んでいたら、扉が開いてイケおじギルド長が入ってきた。
「ギルド長。」
「こ、こんにちは!」
「ああいらっしゃい、ヨリコさん。これがリャラスが言っていた棚か。見てもいいかな?」
「も、もちろんです!」
イケおじギルド長あらためヴェッセルさんは、カラーボックスをじーっと見たり持ち上げたりしている。私はリャラスさんにしたのと同じ説明をした。
「素晴らしいな。」
「ありがとうございます。」
「ヨリコさん。」
「えっ?」
「これを、鑑定にかけたいんだが……構わないだろうか。」
「鑑定、ですか?」
鑑定スキルは、品物のランクや使った素材、付与された効果なんかも見れるらしい。人にも物にも使えるんだ。ここには、ギルド専属の鑑定士さんがいるとのこと。
「いい、ですけど……何かまずかったですか?」
呪われていたりはしないはずなんだけど、と不安になる。
「ああいや、確認したいことがあってね。」
「そうですか、わかりました。」
私が了承すると、ヴェッセルさんは一度部屋を出て、鑑定スキルを持っているというヘルハルトさんという男性を連れてきて、紹介してくれた。
「じゃあ鑑定すんね。」
「あ、はい。お願いします。」
ヘルハルトさんが、私が並べたカラーボックスを順に見ていく。彼の鑑定は『目』で見て行うみたいで、各ボックスを見て目にクッと力を入れている。その様子をじっと前のめりで見ていたら、「ちょ、あんま見ないでよ。眉間に皺よるからやなんだよ。」と言って顔をぐいっと押し返された。
「終了っス。間違いないっスね。」
「……そうか。」
何が何だかわからない私は頭に疑問符を浮かべるだけだった。すると、ヴェッセルさんがこちらへ向いてソファに座るよう促す。
私は座り、リャラスさんが淹れてくれたお茶をひと口のみ、カップを置いた。
「先日、ギルド内の椅子とテーブルを作ってくれたと思うんだが……」
「あ、はい。喧嘩してた人たちが壊したものの代わりに、と作りました。」
「そう、それだ。」
「それが、何か??」
「治癒の効果が付与されていた。」
治癒? というと、回復的なあれだよね?
クラフトした家具に効果が付くなんて知らなかった。そんなイメージは、してないし……。
「この棚も、治癒効果付き。」
「そう、なんですか?」
「あんまわかってないみたいっスね。」
ヘルハルトさんはカラーボックスを指して言った。疑問符を浮かべる私に、ヴェッセルさんが説明してくれる。
「その分だと、知らずに使っているみたいだな。治癒の効果なんて、聖力が無ければ付与できないんだ。」
「えっ」
聖力。
それは、ことの発端となった異世界聖女召喚のアレのこと。この国に、今は不在の聖女の話に戻るけど、だって、それって……!
「そんなはずありません! あの、顔だけは良い偉そうな自称王子に鑑定されて、聖力が無いって……っ!」
あ、まずい。
超ウルトラトップシークレットだ。
自分から話してしまった……!
「あ、いえ、あの、今のは、」
「いいんだヨリコさん。事情は理解している。」
「あっ………え?」
「ごめんね、ヨリコ。君が異世界から召喚されたということは知っていたんだ。」
「ジーク、さん?」
いつの間にやらジークさんが、扉に寄りかかって立っていた。
……絵になりますね。
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