【劇?】第八章 正解のない答え合わせ
第41話 【カナコ視点】気付かないふり
時間は限られている。
時間は命そのもの。
だから、その命を大事に、決して後悔しないように生きなければだめ。
わたしは精一杯のことをしたのかな。
よくわからないまま、エイジさんの自宅まで押しかけて、住むところがないから、とりあえず近所の里山に住み着いて、おまけに木掛さんの会社にまで――
どうでもいいけど、エイジさんも木掛さんも良い人だよね。
そんでもって、不器用で損するタイプ。
傍から二人を見てると、なあんかイライラしちゃう。
可愛さあまって、憎さ千倍?
でも、人様よりも自分はどうなのさ。
全て素直に、思いの限りできてたわけ?
本当は、わたしは何がやりたかったんだろう。
恋愛?
友達ごっこ?
以前から思ってた。
虫って儚い生き物だよね。
だって、外に出るより土の中にいる方がよっぽど長いんだよ。
やっと大きくなって自由に飛び回れるようになっても、人間みたいにそんなに長い時間を与えられているわけでもない。
人間みたいに夢をもって、長い年月をかけて何かを成し遂げるとか、逆に暇を持て余して、色んなことに悩んでお酒を飲んだりする時間もない。
天敵に怯えながら住処を探して、食べ物を見つけて。
そして、誰かと結ばれて。
全部、一瞬で通り過ぎちゃう。
だから迷ってなんかいられない。
よくよく考えれば虫って恋する生き物だよね。
誰かと巡り合うために大きくなって、大空に翼を広げて飛び回るんだ。
それに、カナブンって面白い生き物だよね。
よく壁にぶつかってひっくり返ってるし。
あれってね、飛行能力が優れてることの裏返しなんだよね。
前翅を閉じたまま後翅を羽ばたいて前傾姿勢で飛ぶのさ。
前屈みになってより加速して目的地にひとっ飛びだよ。
だから、よく壁にぶつかっちゃう。
それに、飛ぶのが速いのって、誰かを出し抜くとか、何かを捕まえるとかじゃなくて、いつでも逃げれるようにってことなの。
だって、普段啜ってるのって樹液だもんね。
ようは臆病もん。
カナブンって。
わたしの存在ってなんなんだろう。
虫でもない、人間でもない。
じゃあ何って言われたら、元カナブンの妖精って。
そんな、ふわふわした存在だよね。
わたしは何のために生まれてきたのかは、なんとなくは理解してる。
それは――子孫を残すため。自分の命を未来に繋げること。
心の奥に潜むホンノーってやつ?
それが胸の扉をこっちの気持ちなんてお構いなしにどんどんとノックしてくる。
でも、それすらもできない、いや、本当の気持ちも伝えられずに、アプローチすらできなかったわたしはただの弱虫。
やっぱり、わたしってば元カナブンなんだよね。
臆病で、壁にぶつかるまで猛スピード出してさ。
だめだね。そんなんだから、もうチャンスも無くなっちゃった。
迷ってるうちに全部を取り逃がしちゃった。
里山を散策しながら色々とプランを練ってたんだけど、何にも行動に移せなかったな。
やりたいこと色々とあったんだけどな。
ほんと、だめなやつだね、わたしってばさ。
今夜が最後だったのに。
もう息が切れ始めて、目の前も暗い。
終わりが近づいている。
カナブンって成虫になってから一か月もたないんだよね。なんとなくわかってたんだけど、わざと気付かないふりをしちゃった。
――最終章「正解のない答え合わせ」――
スタート
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます