第11話 ふ……ふっはっはっは!!
誰かに護られたいなんて思った事はなかった。
私は私に出来る事をやって、輝ける人が表に出れば良い。そうすれば全部円滑に回るし、皆が助かって、皆が笑う。だから、私は裏方で良いのだ。
“ならば、私が君を見よう。覚悟したまえ。私は見逃さないよ? ふっはっは!”
そう言う社長は私を見つけてくれた――
「貴方と行けません」
私はアーサーさんにきっぱりそう言った。
「悪い話では無いと思うよ? 君はこの世界に来たばかりだろう? 何故この様な状況になっているのかさえ、解らないハズだ」
状況の解らない不安の中でのアーサーの提案は色々な問題を一気に解決できるだろう。しかし、それは――
「貴方に着いて行けば全て上手く行くかもしれません。ですが……それは考える事を放棄した人のやり方です」
強い意思を宿す瞳で甘奈は言い返す。
「確かに私は何も知りません。けど……だからこそ私にしか出来ないことがあると思っています」
「…………」
甘奈は抱えられている状態から丁寧に下ろされた。そして、アーサーはバサッとマントを翻す。
「どうやら、君の瞳には僕が映っていないようだ。既に見つけている様だね」
「? 何をでしょう?」
「君が生涯を賭けても尽くしたいと思える相手さ」
アーサーの言葉に少し考える甘奈。そして、真っ先に出てきたのは、ふっはっは! と笑う男――
「しゃ、社長とはそんな関係じゃ無いです! いつも一緒にいますけど! 仕事! 仕事ですから! 社長は凄い素敵な人で私なんかじゃ釣り合わないですし!」
顔真っ赤で眼をグルグルして否定する甘奈にアーサーは、フッ、と笑うとコツコツとウォルターと四天王達の目の前を通過する。
すると、王の間を破壊し侵入してきた穴へ迎えの様に一体の騎竜が止まった。
「わぁ! ドラゴン!」
甘奈のリアクションもそこそこに、アーサーは騎竜に跨がりつつ場の全員を見下ろす。
「【氷結の魔王】は思ったよりも手強い。西の攻略は一筋縄では行かない様だね。期を改めるとしよう」
ああ、それと。とアーサーは付け加える。
「2週間後に【魔王会談】を開く。西は忙しくなりそうだから僕が主催しよう」
「お心遣い感謝いたします」
本来ならば、西の魔王の存在を誇示する為に、西の領地が主催するべき事なのだが、今は内政がぐちゃぐちゃなのでその立て直しが最優先であった。
「【氷結の魔王】」
「え? はい!」
甘奈は騎竜から見下ろすアーサーにしっかり返事をする。
「全てが落ち着いたら立場を抜きにして考えておいて欲しい。僕と君との未来を」
「………………え?」
「2週間後にまた会おう」
騎竜は穴から外へ飛び降りると、降下からの勢いを着けて上昇。そのまま外を牽制していた騎竜隊と合流しつつ、北へ帰って行った。
「……終わったぁ……」
緊張の糸が切れた様に力が抜けた甘奈は、その場にへたり込む。
「魔王様。ご立派であられました。我らは貴女様にお仕えする事を心からこの場に宣言致します」
ウォルターと『四天王』は甘奈の前に頭を垂れると、改めて彼女の言葉を待つ。
その様に甘奈は慌てて立ち上がると、軽く服の埃を払った。
「え……えっと――」
何と言って良いのか。こうやって表立って注目を向けられる事はあまり経験が無い。
諸君! 私が黒船正十郎である!
……私は社長の背中をずっと見てきた。あの人の様に上手く出来ないかもしれないけど……
「と、轟甘奈と申します。改めて――」
胸を張って前に立つ事でその背を見る者達が安心できると知っているから。
「よろしくお願いします、皆さん。ふ……ふっはっはっは!!」
「魔王様は……その様にお笑いになるので?」
「…………すみません。少し、背伸びしました」
少し外したリアクションに赤面する甘奈を見て四天王は、可愛い……と感じていた。
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