第9話 聞いてくださぁぁぁい!!
「わぁ!?」
アーサーの爆発するように膨れ上がった魔力に吹き飛ばされた甘奈は思わず転んだ。
「痛たた……」
ちょっと擦ったけれど怪我はない。それよりも……ヒールはやっぱり走りづらいなぁ。
空気がビリビリと震える感覚を頭の角が捉える。それは、圧倒的な存在から放たれる魔力が極端に開放されたのだと感じ取た。
「う……」
振り返ると、同じ様に吹き飛ばされた四天王が瓦礫を退かしながら、宙に浮くアーサーを見ていた。
彼は頭部も含めて膨大な魔力を這わす鎧に覆われ、その背後には七つの剣が浮いている。その内の一つは、『ロードウッド』の根を焼き付くしたモノだった。
『降伏したまえ。君たちも分かっているだろう? こうなっては、君たちでは傷一つつける事は出来ない。可能なのは同じ『魔王』だけだ』
アーサーは床に足を着けると、それだけで魔力が衝撃波となって、四天王たちを襲う。しかし、今度は吹き飛ばされずに皆はその場に耐えきった。
ウォルターだけが、防御魔法を使い、その場に留まる。
「くっ!」
コツ、とアーサーはウォルターへ歩く。
「あわわ……」
あれって相当にマズいのでは無いのだろうか? 何か……何か私にも出来る事――
「魔王様!」
「はい! え? ひゃあっ!?」
と、近くから頭部だけになったスケルトンに呼ばれて返事をすると同時に驚いた。
あ、頭だけで喋ってる!?
「お逃げください! 私は身体が吹き飛びました!」
「そ、それって一大事ですよね!?」
「問題ありません! パーツが集まればまた動けます!」
「そ、そうれすか!」
ちょっと噛んじゃった。
その時、ウルフが甘奈の横に滑ってくる。アーサーに吹き飛ばされた様だ。
「わっ!? だ、大丈夫ですか!?」
『魔王様……早くお逃げを。貴女さえ無事ならば我々はまだ終わりません』
「そ、それよりも、話し合いを……」
ウルフは、シュバッと戦線に戻る。
見ると、アーサーは剣を床に突き立てて、その柄尻に手を置き、王の様に立ち止まった。彼の回りに浮く七つの剣が泳ぐように動き、臣下の様に四天王と戦っていた。
ファンタジー全開だ。甘奈は頭の回転が早い方だが、つい数時間前まで平和な現代文明圏に居たのだ。
そんな折に、いきなり異世界に喚ばれて、いきなり超常バトルが始まった様子に次の行動へ移行するのに時間がかかるのは仕方ない事だろう。
『中々だ。各々の特性を存分に生かし、それをウォルター卿が補佐する。四天王を名乗るだけはあるね』
アーサーは余裕でそんな事を口にすると浮遊する剣を一つ手に取る。
あ、これ、ヤバい。
甘奈は自らの角が最大限の危機を感じ取った。それは理屈ではなく、本能的にマズイと感じ、ヒールを脱いで裸足で駆ける。
『君達の様な人材を失うのは惜しいが、ここまで拒絶されては征服後の懐柔も難しいだろう』
「させん!」
『無駄だよ、ウォルター卿』
アーサーの一振を阻止しようとした時、横から飛んできた剣がウォルターの杖を両断する。
「は、な、し、を――」
『さらばだ』
振り上げられた剣はそれだけで天井を破壊し、振り下ろせば全てを破壊――する寸前で甘奈が駆け寄ってくるのが視界に入る。
「聞いてくださぁぁぁい!!」
その叫びに呼応する様に、甘奈の視界全てが凍りつき、アーサーは氷塊の中に封じられた。
彼女はそのままアーサーを含む、王城の半分を凍らせる程の巨大な冷域を一瞬で出現。
その領域内の物質は全て凍りつく――
アーサーと共に先駆けた飛来した北の精鋭竜騎兵隊は王城へ入った主の邪魔をさせない様に注意を引き付ける様に命令されていた。同時に、上空から地理情報も拾う。
「かなり大きい都だ。防衛には不向きと見えるな」
「隊長、魔王様の援護に向かわなくても良いのですか?」
部下は部隊長へ竜騎を寄せると単独魔王城へ乗り込んだ主の身を案じる。
「問題ない。あの方が敗れる事は天地がひっくり返ってもあり得ない事だ」
北の領地は、常に冷気に覆われた過酷な環境。そして、出現する魔物も物理的概念を越えたモノも多々存在する。
アーサーは、その全てを斬り伏せて平伏させる事で北の領地を支配しているのだ。現在も前線で剣を振るう、現役の戦場騎士なのである。
「我々はあの方が行くと言ったら共に行くだけだ」
アーサーの目的は民の安寧である。
隊長は、その意思を違えた所を見たことがなく、側に仕えられる事を誇りに思っている。
此度の侵攻は一件無茶に見えど、極力戦力を使わずに西を制圧できる絶好の機会だと感じていた。
「我欲に溺れる東の魔王や、書庫に籠る南の魔王とは違う。アーサー様こそ、このセルア大陸を納めるに相応しき御方――」
その時、魔王城の半分が氷つき、巨大な氷塊が出現した。
「!!!? なんだ!?」
唐突に現れた規格外の氷魔法に、竜騎兵は勿論、地上の敵兵士達も動揺する。
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