Carpe diem(カルペ・ディエム)ーー今を生きよーー 女の子と魔法で苦難を乗り切る話

@qs0724

第1話 エルフの女の子との出会い

名前も知らないその人に一目で惹かれてしまった

ここはいつかの普通の路上、様々な種族が行きかうにぎやかな都市だ。もう二度と会えないかもしれないその人に僕は声をかけた。

「あ、あのー、さ、酒場はこの辺りにありますか?」

キレイな髪がなびいて彼女がこちらを振り返る。

胸まである金髪、この辺りでは珍しい緑色の瞳――そうだ間違いなく僕は彼女と会ったことがある。

「ああ、酒場?この通りを真っ直ぐ行ったら右手に見えるよ」

細い指でとおりの先のほうを指す。その手に向かって肩からトラ柄のリスが移動し、手の先にちょこんと座る。この辺にはよくいるトラリスだ

「どうもありがとう、それじゃ、また」

無意識にでたその言葉に僕自身気づくことはなかった。

彼女はニコッと笑い街の人波に消えていった。

彼女とは一体いつ会ったのだっけ?

そんなことを考えていたら、僕の人波に流されて、自然と酒場のほうへ足を向けていた。

教えてもらった酒場はその名も『酒場』いや、なんというか……いいんだけど潔すぎやしないか?何かいい情報が手に入ればいいのだけれど。

おそらく常連しかいないだろう酒場のドアに手をかけた。

中では小うるさい感じでトカゲ族の二人が言い争っているようだった。ほかにも数人の客が一人のみしていた。

「あん、見かけない顔だな。まあちょっとうるさい最中だがそんなところに立ってないで入った、入った。」とマスターに声をかけられる。

「ああ、どうもありがとうございます。いきなりですが情報をもっていそうな人は誰だか教えてもらってくれませんか?」と一枚の写真を店主に渡す。

「ん? なんだいこの写真、見かけない女性のようだな。すまないがわからないな。あそこで騒いでるトカゲ族の大柄なほうに聞いてみな。奴はいろんなところを旅してるからな。

なんか知っているかもしれん」といいながらマスターはあっちのテーブルをさした。

……すごい言い争っているけど致し方ない……。「あ、あのー……すみません。今ちょっとお時間……。」

「だから!!豚は丸焼きがいいんだ。なんで生で食べたほうがうまいとか……。ん? なんだお前、何か用か?」と丸い滑らかなツヤをした頭を振って顔をこちらに向ける。」

「お取込み中のところすみません。こちらの写真の女性を探してて、何か情報をお持ちでないかと……。

写真の中で優しく微笑む女性――僕の母――探し始めてもうかれこれ3年になる。

あまり期待はしていない、今回もダメだろう。

トカゲ族の男が写真を覗き込む。

「あぁー……ちょっとわからないなぁ……あ、でもこの耳飾りのデザインは南のものだな……おい、これいつ頃の写真だ?」

突然話を振られて戸惑いながらも少なくとも3年以上前のものだと述べた。

「3年前って言えば、ちょうど北と南で内戦があった時期じゃねえか。」

そう、そのころこの写真の女性、つまり僕の母がいなくなったと伝えた。

「それならこの店の近くに南から来た占い師がいるそいつがこの辺りに来たのが、3年前くらいらしいだから、もしかしたら何か知ってるかもしれねえ。」

簡単な地図を書いてくれたトカゲ族の男はこう付け加えた。

「そいつは曲者だからな、それにめったに店にはいないらしい。まあ、頑張れや。」

そういうとトカゲ族の男たちの言い争いはまた始まった。

聞こえてないであろう感謝の言葉を口にして、僕は店を出た。

先ほどより外は暑く、少し歩いただけで汗が噴き出てくる。

僕は地図を頼りに進んでいった。すると先ほどの彼女の幻を見かけた気がした。

待って、と僕は口の中で唱えてその幻を追いかける。なぜなのかわからない、彼女に会って話をしなければならない気がした。一生懸命追いかけていくと、曲がり角にあたり、そこを曲がるとあからさまに怪しい店に行きついた。看板には『あなたの運命占います』と胡散臭いことが書いてある。

すると店の中から濃い紫のローブを深くかぶった人……老婆だろうか?

声をかけるべきか悩んでいると、向こうから声をかけてきた。

「もし……あなたが私に何か聞きたいことがあるなら、それは間違いだと思います。」

中年の女性の声だ。

そういうとローブの女性は、建物の奥のほうへ歩いて行った。

思わず追う僕。待って、待ってくれ、僕は、僕はあなたと話をしなければならないんだ。ローブの女性は話を聞かずに進んでいく。すると建物の奥にたどり着き、そこには、不思議なものが置かれていた

それは強い光を放ち、僕には全貌はわからないが、何かすごい力を持っていることだけはわかる。

「こ、これは……なんだ……?」

ローブの女性は答えない。目が慣れて正体が見えてくる……大きな紫色の宝石?

その紫の宝石は直径30㎝程の大きさの正方形をしていた。

宝石に手を伸ばし、触れようとした瞬間――

「触っちゃダメ!」

ビクっとして手が止まる。

先ほどとは違う声。

「誰?」

声の主は多分若い女性だろうか?そうとなれば先ほどの女性はどこへ?

声のするほうに振り向く。すると先ほどのローブの女性がフードを取っているところだった。

フードを取り終えた女性は見たことのある顔だった。長い金髪に緑の瞳。先ほど道で声をかけた女性だ。

「その石はとても大切なもので、聖なる力を持っているんです。ですから、気軽に触ると危ないの」女性は語気を強めていった。

そのあと、「特に今のあなたの状態ではね」と付け加えた。

「大切……?聖なる力……?危ない……?」

僕は女性の雰囲気に押されよわよわしくつぶやいた。

「今のあなたには迷いがあります。そういう状態で触れると危険なのよ」

と念を押すように説明してくる。

「“また”会いましたね。何か私に用なのかしら……。私の名前はミーナ……と呼ばれています。」

僕は再会できた喜び、この空間の不思議さで何を言うべきかわからずにいた。

ミーナは長い髪を手で流しながら、緑色の瞳でこちらをからかうように見つめてくる。

何がおもしろいのか、クスクスと笑いながら、

「私を探していたのでしょう?」と近づいてくる。

――私もあなたを長い時まった――とこちらに聞こえるかどうかくらいの声でつぶやいた。

一体何のことだ?僕はただの一般人でついさっきまで酒場で母の情報を探していただけなのに――。背中を冷たい汗が流れるのを感じる。

そんな僕をみて更に面白くなったのか、ぷはっと吹き出しながらこう続けた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。獲って食ったりしないから。豚の丸焼きみたいにはね……。」と笑った。

「あ……えっとあなたは一体何者なんですか?

なんとか言葉を絞り出して言う。

ミーナはニコニコしながら答える。

「私はミーナ!さっきも言ったでしょう?そうね、ほかに言うなら見ての通り緑色の瞳、南のエルフ族かしらね……、ふふ……」

南のと聞いて合点がいった。彼女が身に着けているローブにデザインされた模様それは正しく母の写真の耳飾りと同じものだったからだ。

「あなたのことを待ったの。」というミーナ。

「待ってたってどういうこと……?」と言おうとして何者かの声が遮った。

「ミーナ!!私も紹介してー。」と、ローブ中から何か出てくる。トラリスだ。

トラリスはミーナの体を起用に回りながらミーナの方に乗った。よく見ると肩から少し浮いている。

「ト、トラリスがしゃべった!?しかも浮いてる……?」

トラリスはポピュラーな小動物だが、少なくともしゃべったり飛んだりしない――――僕の知ってる限りでは。

「コラッ、いきなり出てきてしゃべったらだめじゃない。そんなことしたら驚くに決まってるでしょう、トララ!」とトラリスを見ながら注意するミーナ

「この子はトララっていうの。」と説明し、トララに向かって紹介はあとでね、といってトララを撫でた。

トララは、「えーだって―、とゴニョゴニョ言いながらもとりあえず黙った。

ミーナはローブをひらりとひるがえして、「あなたが知りたかったことって、お母さんのことでしょう?」と聞いてきた

「でしょう!」と輪唱するトララ。

「なぜわかったんですか?」と驚きを隠せない僕。

「うーん占い師の勘かな?」といってにこりと笑うミーナ

まさか、あのトカゲ族の男が言ってた占い師って……と聞こえないくらいの声でつぶやく。

「そう、あなたが探してる占い師とは私よ。」と先回りして言うミーナ。

「なんでわかったんですか!?」と考えを読まれてるんじゃないかと疑う僕。

「この石の傍には簡単には来れないよう仕掛けがしてあるの。ここに来られる時点で選ばれた存在なの。強い思いや気持ちに呼応してこの石は反応する。この石の名前は『プラスフィア』太古の魔石よ!」

ミーナは石の前に立ちこちらを見る。

「選ばれた……存在……?太古の魔石……?」

何を言っているのかわからず固まる僕。

「あなたも知っているでしょうこの世界には魔力というものがあるのを、それで人々の暮らしを助けているということを、でも大昔は違ったもっと巨大な魔力に満ち溢れそれを使って人々は争っていたの。その時代の魔石がこれなのよ。」

真っ直ぐにこちらを見つめたままミーナは薄笑いを浮かべている。深い緑の瞳がより一層深く見えた。

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