第12話 大成敗

 島津荘は総勢二十匹程の野良猫たちに囲まれていた。

 四方八方から一斉に襲うことでネズミを一網打尽にする作戦だった。

 予めアパートの住人達には外に避難してもらっていた。


「さて」


 木島トラ男が立ちあがる。


「それでは始めて下さい」


 トラ男の合図で野良猫たちが一斉にアパートに侵入した。


「こんなに猫がいっぱいいるなんて」


 ちょっと可愛い真由美はなんだか幸せそうだった。

 住人が見守る中、島津荘は猫と鼠の修羅場になっている筈だったが、見たところ何の変化も無かった。


「なあ、ほんとにやってるんだよな」

「ご心配なく。もうしばらくで終わりますよ」


 トラ男が言ったように、しばらくするとあの毛並みの悪いリーダー格の猫が出て来た。


「にゃー」

「にゃー」

「で、どうだったって?」

「ああ、追っ払ったと言ってます。もう大丈夫だと」


 有言実行していた。なかなか信頼できる連中だった。


「よくやってくれたね。たいしたもんだよ」


 大家、島津ハツ江はトラ男と固い握手を交わした。

 住人が喜んで部屋に戻って行く中、ちょっと気になった事をトラ男に訊いてみた。


「なあ、鼠って相当いたんだろ」

「ええ、ざっと百匹ほど」

「食べたの?」

「まあ、何匹かは。厳密に言うと追い払っただけです」

「追い払った奴等はどこに行ったんだ」

「あそこですよ」


 トラ男は数十メートル離れた白い建物を指さした。


「え?あれってマンションだろ?まずくないか?」


 トラ男はちょっとこちらへと俺を引っ張って行った。


「何だ?聞かれたらまずい話か?」

「まあ、そういう事です。他言無用に願います」


 そしてトラ男から衝撃の事実を聞かされた。


「大家さんから依頼されたのはネズミの駆除じゃないんです」

「は?どゆこと?」

「さっき私が指さしたマンションなんですが」

「ああ、知ってるよ。エレガント内田だろ」

「ええ、そのエレガント内田のオーナー、内田サチ子と島津荘の大家のハツ江さんは犬猿の仲なんです。しかも相当根深い」

「なんと!じゃあ……」

「ご推察の通り妨害工作です。ハツ江さんは私に、鼠をエレガント内田に仕向けるよう依頼されたんです」

「ドロドロだな……」


 聞いてしまって背筋がぞっとした。


「あわよくば鼠のせいで逃げ出したエレガントの住人をゲットだと言ってました」

「ひどい話だ。あの人、鬼だな」


 そうゆう裏があったと聞いて、人の恨みは買うもんじゃないなと勉強になった。

 だが結局、島津荘にはエレガント内田から誰も流れてこなかった。

 後で聞いたトラ男の話では、ちゃんとした業者に頼んで駆除してもらったらしい。

 こうして野良猫軍団を巻き込んだ一大イベントは幕を閉じた。


 次回最終回。トラ男と隣人たちのこれからにご期待下さい。

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