ウェーイ! オタクくん見てるー? 君の幼馴染は今、彼女の実家で変な祭りに参加させられそうになってまーす! 助けて!!
抜きあざらし
①
水色のヘアピンで前髪を上げ、ツーブロックを強調した茶髪の男。
その隣に居るのは、女の姿をした悪霊。
とてもデートの風景だとは思えない、世にも恐ろしい心霊写真。
それが急に、届いた。こんなメッセージと共に。
『ウェーイ! オタクくん見てるー? 君の幼馴染は今、彼女の実家で変な祭りに参加させられそうになってまーす! 助けて!!』
引きつった笑顔で悪霊とツーショットを撮っているこの青年は、間違いなく俺の幼馴染だった。
この悪霊にも見覚えがある。数週間前、新しい彼女ができたと連れてきた女だ。だからその女はやめておけと言ったのに。
なにはともあれ、もう少し情報が欲しい。恐らくまだ電波が届く範囲に居るはずなので、電話をかけてみる。
『もしもし……オタクくん?』
「今どこにいる?」
『わかんねえけど……なんか【ささらぎ駅】ってとこから歩いていった……』
「ささらぎ?」
『看板かすれてたから自信ねえけど……多分』
試しにググってみたが、当然のごとくそんな駅名は存在しない。
「乗った電車は?」
『宇ツ之宮から下り……あっ』
話中音。切られたか。
それにしても、ささらぎ駅とは。嫌な冗談にしか思えない名称だ。
電波が通じているのだから、恐らく異空間ではない。通話がクリアだったから、基地局からもそう離れていない場所だろう。宇ツ之宮から北ということは菜津方面。
菜津方面の線路沿い、基地局からあまり離れていない、開けた場所。
それに加えて、この写真。前髪をヘアピンで持ち上げた青年の後ろには、大きな赤い山が写っている。不気味なほどに真っ赤に色づく紅葉は、壇対山の麓に見られる怪現象だ。
おおよそのあたりはつけたので、俺は車のエンジンをかけた。
※
目をつけていた河川敷には、複数の車が停まっていた。
その中に、見覚えのある軽自動車と人影がある
「おや、君も噂を聞いて来たのかい?」
古びた軽ワゴンに背中を預ける白衣の女性は、俺が通う大学の教員だ。数学講師でありながら、民俗学を趣味としている。
「噂?」
「なんだ、違うのか。それなら例の幼馴染か?」
「そうですね。変な祭りに巻き込まれてるみたいでして」
それだけで何かを察したらしい。いつも吸っている榊の葉巻をもみ消しながら、彼女はこう言った。
「ああ~、それな。カクタレ祭りって言うらしいぞ」
当然だが、聞いたことのない単語だ。ならば恐らく、彼女の目的もそれだろう。
「先生はその噂を調べに来たんですか?」
「御名答。私の持ってる資料はメールで送ってやるよ。パソコン持ってきただろ?」
言いながら、彼女は小ぶりのノートパソコンを開く。俺が旧型の大きなノートパソコンを開いてポケットWi-Fiへの有線接続を終えた頃には、すでにメールが届いていた。
「それじゃあ私はもう行くから。お前も気をつけろよ」
柊の髪飾りで長く伸びた黒髪を結わえながら、細い道を進んでいく。見たところ舗装はされているようだが、歪みも多くところどころ割れていた。石や雑草も多く、日常的に使われているとはとても思えない。
彼女はそのまま去ってしまったので、貰った資料を確認することにした。
資料といっても、その半分はこの地域のインターネット掲示板(治安が死ぬほど悪い)の書き込みログだった。
要約すると、この地域でまとまった数の行方不明者が出ているとのことだ。
なんか急に消えただとか、廃村巡りの最中だったとか。テーマパークに行くと告げた一家がまるごと帰ってこないという話もある。
もう少し読み込むと、車で出かけたきり行方不明になったらしい友人の車種とナンバーが掲示されていた。
河川敷に並ぶ車両を確認。一致するものがあった。
少なくとも彼らは、自分の足でここに来ている。
他にあったのは、県内各所での不審者目撃情報だ。目撃者や不審者の姿は様々。唯一共通しているのは、家に遊びにこないかと誘ってくるところ。
そういえば、あの間抜けな幼馴染は逆ナンされたと言っていた。なるほどそういうことか。
そして最後に、数枚の画像ファイル。
菜津の郷土資料館で見つけたらしい文献の写真だ。
このあたりにかつて存在していたらしい【きさらぎ村】の情報と、そこで行われていた【カクタレ】なる奇祭の記述。
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コラム:きさらぎ村の奇祭
奇祭と言えば妙な儀式やら、変な飾りや神輿で話題になるものだが、このカクタレは一味違う。
なんでも、村の外から多くの人を招き、郷土料理を振る舞うだけだというのだ。
変なお祭りだが、際立った特徴はないのであまり話題にもならず、村おこしとしても失敗し、結局きさらぎ村は廃村になってしまった。
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あとなんかこの辺で幽霊が出るみたいな書き込みもあった。
これだけじゃなんもわからんな。
俺は『当たって砕け』という先生の教えに従い、きさらぎ村があったという座標を目指した。
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