スキル『思考加速』で異世界生活を
七宮理珠
プロローグ
上を見上げれば青一つない曇天。視線を下に落とすと俺の進路を邪魔する障害物かのように佇む水溜まり。環境が俺のことを歓迎していないと言わんばかりの風景。
そんな中、俺、
六月もそろそろ中旬に入ろうとしている。梅雨入りしてからしばらく経ち、この風景にも見慣れてきた今日この頃。
五月病、というものが存在するが、本当にダルいのは六月に入ってからだ。五月の気怠さにようやく慣れてきたと思った矢先にこのジメジメした空気とどんよりとした空。ここで気持ちがプラスに戻る人なんて早々いないだろう。まあ、俺はドライアイなので、ジメジメした環境は寧ろ大歓迎なのだが。
それにしても、昨日大雨が降ったからか、今日はやけに水溜まりが大きい。靴を濡らしたくないので上手く回避して歩いていくが、進んでも進んでも水溜まりはなくならない。まるで俺が学校に行くのを阻止しようとしてるかのように……。
「ふぅ」
結局いつもより5分以上登校に時間がかかってしまった。そのせいで始業二分前と結構ギリギリに学校に到着。
「よ。今日は珍しく遅かったね~」
そういって挨拶をしてきたのは幼稚園からの幼馴染の
「ん、おはよう。まあちょっとな」
俺はそういってはぐらかす。水溜まりを避けてて遅れたなんていうどうでもいい理由なんぞ言えわなくてもいいだろう。
「ふーん。あ、そういえば昨日推し姉の見た?」
「いや、まだ見てない。ネタバレはやめてくれよ」
カバンから教科書を取り出し机に入れながらそう言う。
推し姉というのは、「俺の一番推してるVtuberが実の姉だったんだが」という今期やってる深夜アニメの略だ。ラノベ出身に限らず、アニメには妹キャラが多い中、姉キャラを売りにしている珍しい作品である。
「ちっちっち、わかってないなあ。私は内容について談義がしたいのであって、一方的に話を聞いてほしいわけじゃないよ。だからネタバレはしないって」
「できれば学校で談義するのもやめといた方がいいぞ。周りにまだ見てないやつがいたらマジで害悪だからな」
「確かに。了解であります!」
そういって敬礼のポーズをとる凛。相変わらず朝から元気なことで。
こいつは学校では明るい系の美少女だが、二次元の知識も結構あるので、陽キャとオタクの両方からかなりの人気がある。そのため、俺は通常の倍の量の嫉妬の視線を浴びることになるんだが……そんなに話したいなら話しかければいいのにな。凛は基本は来る者を拒まないタイプなので、よっぽどじゃない限り嫌がられることはないだろうに。
いやまあ、女子に話しかけるのは難しいってのは分かるんだけどさ。こいつはかなり話しかけやすい部類だと思うが……。
もしかしたら周りのやっかみが怖いのかもしれない。とはいっても、俺とていじめられたり直接暴力を振るわれたりしたことはさすがにないし……。まあ初期の頃はSAN値がゴリゴリ減っていたが。
「とりまそろそろ担任来るから席戻れ」
「はーい」
そう言って凛が自分の席に戻ろうとした次の瞬間、突然教室の床が光り出した。光は円状に広がり、やがて規則的な模様を描き出した。その形はまるで、ファンタジー系アニメによく出てくる魔法陣のようで……。
「そろそろホームルーム始めるぞ~。ってなんだこれは!?」
ちょうど担任が教室に入ってきた。その瞬間、魔法陣らしきモノの光が一気に広がっていく。
俺は咄嗟に凛の手を引いていた。おそらくこの感じ、どこかに転送されるのだろうが、俺にとっても凛にとってもさすがに一人になるのはまずい。
やがて俺たちは眩い光に包まれていく。目がぁぁ〜!目がぁぁぁぁあっ!!
俺たち2年C組はこの日、世界から姿を消した。
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