1.3 部活動とは?
「お前もよく知ってるだろう去年同じクラスなんだし」
「え、ああ、まぁ……」
知っていると言えば知っている。よくは知らない。何故なら話したことすら無いからだ。そんな相手を気安く知り合い呼ばわりするほど馬鹿じゃない。クラスメイト=知り合い理論は間違っている。
「同じクラスの柳橋君だよね。
そんなことを考えている間に先手を打たれた。グッと顔を近づけ俺を下から覗くように見上げている。ヤバい。可愛い。
てか、距離の詰める速度早すぎだろ。ジャブを打つ前にストレート食らった気分。
「ああ、よ、よろしく……」
やべぇ。完全にペースを乱されている。なんとしてでも平常心を保とうとするも顔に謎の熱を帯びる。これは緊張とかそういう類いではない。未知の経験に対応策を探した結果、少し体温が上がっただけだ。
「何照れてんだよ柳橋!シャキッとしろシャキッと!」
田辺先生は派手に笑いながら俺の背中をバシバシ叩く。
今そういうの一番うざいっすよ。これだからいい男見つかんないんですね。よく分かりました。
ふぅと一息ついて平常心を取り戻し先生へ問う。
「顔合わせも済んだので今日はもう帰っても大丈夫ですよね」
「そうだな、時間も時間だ。今日は解散という事で」
先生は大きくあくびをした後、職員室へと消えていった。
俺も帰ろうと玄関の方へ向かおうと歩き出した時、目の前に立っていた笠原希美が俺をじっと見ていたことに気づいた。
「……」
あまりの圧力に思わず足が止まる。大きな瞳が俺をガッチリと捕まえているようにさえ感じた。
「……何か?」
俺の問いにはっと我に戻ったような反応を見せる笠原。
「あっ、いやー、柳橋君ってさ私の事知ってた?」
「顔と名前程度は。それじゃあ……」
なんだそんな事か。てっきり1対1になった瞬間性格悪くなるタイプの奴かと思った。さっきの俺の取り乱した反応を見て自分の存在を認知されていないと思ったのだろうか。
勘違いしている人も多いと思うから念のため言っておくと、陰キャほど周りの状況をよく把握している。自分のテリトリーが無いため常に周りに気を配っているのだ。
だからこんな目立つ奴のことなど知らないはずもない。
容姿端麗、スポーツ万能。挙げ句の果て冴えない陰キャにも愛想を振り撒く。多くの男子生徒が理想の彼女に掲げるような存在だろう。
しかし、学業に関する噂は聞いたことが無いため大したことないのかもしれない。結論、俺の勝ち。
「えっ?冷たっ!」
何か騒がしい後ろを無視し玄関へと向かう。こういう奴には深く関わらないほうが良い。勘違いが加速して最終的に痛い目を見る。無視無視。
「じゃあまた来週!」
懲りずに声を投げ掛ける笠原の声が俺の耳には届いていたがしっかりと振り返ることはせず、軽く会釈だけを返した。
***
特に何もない休日が終わりいつもであれば何もない月曜日の放課後。しかし今日は何もなくない。記念すべき人生初部活だ。と言っても準備されたパソコンで相談を確認して終わりだが。
さらに、田辺先生曰く、相談は1週間で一つ来るかどうかってレベルらしい。確かにこれじゃあ生徒会執行部は名乗れないか。
生徒会の連中と八会わせぬよう教室であえて時間を潰し10分ほど遅れて第2生徒会室へと向かった。相変わらず騒がしい生徒会を横目に俺は奥の暗がりへ足を踏み入れる。
先週のことが事実であることを頭の中で再確認し、扉の前で一呼吸おく。すると、
「何してるの?」
いつの間にか背後に立っていたのは笠原だった。昨日話したばかりの奴に躊躇なく話しかけるあたり。さすが陽キャだ。
俺なんて仲良くなったと思った奴がよく日には全く違うグループに行ってしまったりすることが多すぎる。そのせいで自分から話し掛けるようなことはほぼない。
「いや、別に……」
俺はスッと第2生徒会室へ足を踏み入れた。
中はそこそこ広いが、部屋の半分は教材置き場と化している。中央に雑に並べられた机の一つには既に1台のパソコンがのせられていた。あれを使えと言うことらしい。
俺はやることが分かったからといって一人で作業を始めるような空気を読めないクソ陰キャではない。黒いリュックを担ぎながら室内をキョロキョロ見回す笠原に一応声を掛ける。
「その……活動については何か聞いてるのか?」
「まぁね。私去年から手伝ってたから。……それにしても凄い綺麗になったなぁ」
まさかの経験者かよ。辺りをキョロキョロしていたのは、やることが分からないんじゃなく綺麗になった部屋に感心していただけだったのか。
「じゃあ普段どんなことしてたか分かるのか。俺は今日が初日だから何もわからない」
「うん大丈夫大丈夫。ほとんど暇だから!あっ、でも今日はあるみたい」
置かれたパソコンの前へ呼ばれ俺も画面に目をやる。するとそこには、匿名枠に1件のメッセージが入っていた。
「“入学後上手くクラスに馴染めずいつも1人です。友達の作り方を教えて下さい”だって……あっ……」
「あっ」てなんだよ「あっ」て。「あなたも未だに馴染めてないもんね」みたいな目で俺を見るな。
「この答えは簡単だな」
この相談者は仲間を作ればクラスに馴染めると思っている。だがそれは違う。ボッチが全員クラスに馴染んでいない訳ではない。そう、要するに……
「無理に群れたところで根本的な問題は解決しません。1人の時間を楽しんでみてください、っと」
パソコンの前に座る笠原の前に割り込み、ササッと文章を打ち込む。
「ちょっと!そんな返信ダメだって!」
送信ボタンを押そうとした俺の手をパシッと払いのけた。そして俺の書いた文章を全て削除し新しく打ち直し始めた。
「勇気を出して自分から誰かに話しかけてみてください。きっと仲良くなれますよ!っと。こういうポジティブなほうが良いの!」
「はぁ……お前は何も分かっちゃいない。そんな勇気のある奴が一週間で友達一人も作れないわけないだろ。こういう相手には現実を教えてやることが本当の優しさだと思うぞ」
「もう!こういうのは最初の勇気が大事なの!考えがひねくれすぎだよ」
頬を膨らまし大きな瞳でキッと俺の目を見る。これは睨んでいるつもりなのか?欠片も怖さを感じない。俺も引くに引けず睨み返す。
すると、カラカラとレールを走る扉の音が鳴り、誰かが部室へ入ってきた。自然とそちらに視線が移る。
「なんだもう仲良くなったのか」
田辺先生だ。その後ろには1人の女子生徒も一緒だった。
「別に仲良くはなってないですよ。ただあまりにも理想まみれの綺麗事を吐くから陰キャの現実を教えてあげていただけです」
「違います!柳橋君が冷酷な返答をしようとするから」
顔を真っ赤にした笠原を田辺先生は分かった分かったとなだめると、後ろにいた生徒の背中を優しく押し、俺達2人の前に押し出す。
「あれ、あや?どうしたの?」
笠原が不思議そうな顔で首を傾げる。その生徒は俺も知っている。去年から引き続き俺のクラスメイトの1人、
「せっかくこんな部活を作ったんだ。ちゃんと働いて貰うぞ。じゃっ、私はこれで」
そう言うと田辺先生は部室から出ていってしまった。
あの人自分に来た相談こっちに丸投げするつもりじゃないだろうな?侮れない。
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