第2話


だめだ。

完全に踊らされている。


真剣に相手にされてるわけないと思いながらも

早めに仕事を終わらせて昨日と同じ場所に向かう。



すると待ち合わせ場所にはすでに彼が待っていてくれた。



かっこいい。


すらっとした身長と、小さな顔。

どう考えたって不釣り合いなのに。

永嶋くんはどういうつもりなんだろう。

「お疲れ様です。ほんまに早く終わったんすね!」

到着するやいなや、嬉しそうに彼は言った。

『お待たせしてごめんなさい。お疲れ様です。』

「いえいえ、ほな行きましょかぁ」

この状況はなんだろう。


何で私はイケメンくんと歩いているんだろう。

考えを巡らせながら何か話さないとと頭をフル回転させる。

『いつも何時くらいに終わるんですか?』

「それ言うたら〇〇さん、気遣いそうやから内緒です」

『でも.....』

「大丈夫っすよ!大学の課題やってるんで」

『だっ大学?!』

「え?」

『....え?』

「すみません、俺バイトです。大学生です。」

.............大学生?

まって。大学生?

たしかに、かっこいいと思っていただけで

彼が何歳だとか、バイトだとかあまり考えてなかった。


そんな距離感だった。


というか、それが当たり前のはずなのだ。

そりゃあ歳下だとは思ってたけど…



ハッと彼の顔を見ると

少し不安げにこちらを見ている。


な、何か言わないと。

『あっそうだったんですね....!!!?』

「びっくりしました?」

『や、まあ、、永嶋さん大人っぽいし、、』

「ほんまですか?それは嬉しいっす」



大学生であることへのショックを隠しきれないまま

慌てている私をよそにどこか機嫌良さげに歩く彼は、

お世辞にも綺麗とは言えないお店の前で立ち止まった。


「ここっす!上手いんすよー」

連れてきてくれたのはお好み焼き屋さんだった。



いらっしゃい、と親しげに迎え入れてくれる店員さんとは顔見知りなのか、

うぃっす、と小声で軽く会釈をしている。



それに合わせて私も小さく会釈をしてみる。

「豚玉とコーラで!〇〇さんはビールっすか?」

『いや私もコーラで大丈夫』

「じゃあ豚玉とコーラ2つお願いしまーす!」


慣れた様子で注文をしてくれて、

おしぼりで手を拭きながら壁にかかったメニューを眺める彼の横顔がなんとも美しくて。



このままでは自然に気づかれてしまいそうだから

慌てて会話を切り出した。




『お酒弱いの?』

「弱いってかまだ飲んだらダメなんすよ」

その言葉を聞いて、

本当に浮かれすぎていたと気づくのに時間はかからなかった。




次の日



私はもちろん頭を抱えていた。





彼は大学生で、19歳だった。

もうすぐ20歳になると言っていたけれど....



ぐるぐると考え事をしている暇もなく午前中は終わり

あっという間にランチタイム。

美希が誘ってくれたことに感謝して、待ち合わせ場所に向かう。





「どうしたの、浮かない顔して。」



美希は待ち合わせ場所に着いて私の顔を見るや否やそう言った。



「昨日イケメンくんとデートしたんでしょ?」

『そうなんだけど......』





私は彼のことを同僚に話した。





「あーまさかの。まあ言われてみればそうだよね」




美希も一緒に頭を抱えてくれる。




「でも梨紗、私たちそんな若い子に

うつつ抜かしてる時間ないじゃん(笑)」



『うう.......』



「理想は年上の、商社マンとか言ってなかったっけ」


『はい......』



「それが19歳の大学生に」



『好きとかそんなんじゃ.....』



「でも嬉しそうだったよー?

まあ久々のデートであんなイケメン相手で

喜ばない人いないか(笑)」



『そうだよ調子乗ってました....』



「まあべつに年齢関係ないっていうなら

私は応援するけどね。楽しかったの?」



『うんとても...』





歳は関係ないかもしれないけど、

永嶋君は今から人生がどんどん楽しくなっていくのに

そんな彼に私は歳上すぎるし年齢的にも重いんじゃ....





先走っていることはわかっているが、

考えずにはいられなかった。





そんなことを考えてる私をよそに、携帯が鳴った。





「梨紗さん、お疲れ様です。

今日もあそこで待ってていいですか?」





高鳴る胸が押さえられない。


こんな感覚、いつぶりだろう。



久しぶりに男性と連絡を取り、食事に行く。

それだけで免疫がほとんど低下しきっていた私にとって

胸が高鳴るのは充分すぎた。



この状況にドキドキしているのか


はたまた彼にドキドキしているのか。



きっと前者だろう。



落ち着け私。





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