「名も知らぬ貴方へ」

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「名も知らぬ貴方へ」

「昔は優秀だったのに」

誰かが僕に向けてそう言った。

「お兄さんは優秀だったのに…

どうして君は…」

1人1人の言葉が、胸に刺さる。

「君はいらない」

大切な誰かからも、見捨てられた。


「うるさい、うるさい…うるさいうるさい!!」

そんな夢を見て目が覚める。

「はぁ、夢か…」

いったい、何度目だろうか。

こんな夢にうなされたのは…そんな事を考える。

「もう、いっその事″死んでしまいたい″」


そんな事を願ったある日、ベットで

横たわっていると背中に寒気がし

後ろを振り返る。

するとそこには、フードを被り、

大きな鎌を持った何かが立っていた。

咄嗟に身構え、何かを見つめる。


「あぁ、ごめんごめん、驚かせるつもりは

無かったんだ。そう、警戒しないでくれ」


そう言うと何かがフードを脱ぐ、

フードの下には、月に照らされ、

金髪にも見える銀色の髪に、

白く透き通った肌、宝石のように赤い瞳

を持つ女性であった。


「私の名前は…おっと、すまない。

決まりで名前は言えないんだった。

″死神″とでも呼んでくれると助かるよ」


死神と名乗る女性はこちらを見て、微笑む。

それと同時に、部屋の鍵や窓が

閉まっている事にも気付く。


「あはは…幻聴の次は幻覚か…」

思わず、乾いた笑いが零れ落ちる。

すると女性はそれに気付き、こんな事を

問いただす。


「君…いや、違うね。君達にとって

″死″とはなんだい?」


…意外な言葉だった。幻覚だけならまだしも、

死神と名乗る女性がそんな問いをするなんて

思いもせず、ただ硬直する。


続けてその女性は

「例えば、今、生きているが苦しくて、

心も壊れきった…そんな人にとっての、

″死″とは?例えば、今、守りたい人が居て、

絶対生きて帰らないといけない人に

とっての″死″とは?」


自分なりに心の整理を整理する。

心が壊れきった人にとって″死″とは

きっと、救いなんだろう。

その代わり、守りたい人が居る人に

とっての″死″は不幸なんだろう。

1つの結論を決め、口にしようとするが


何かを察した女性は笑顔のまま

「じゃあ、君にとっての″死″とは…

なんだい?」


1番聞かれたくない話題だった。

それと同時に、救い…

言葉にするのは簡単だと思っていた、

だが、声に出せない。


「いや、言葉に出さなくても良いよ。

君達の考えなんてのは読めるんだ、

せっかく、こんな話をするんだから

公園にでも行こうか?

それに、死にたいなんて願ってるのならば、

別に今日くらい悪いことしても良いだろう?」


全く、女性の意図が読めない…が。

気分転換の為について行くことにした。


────────────────────


「どうしたら、消えてくれるんですか?」

公園へ向かう途中、女性に対し、

疑問を投げかける。


「私が消える条件?それは3つのうちの

何かを満たす時だよ。1つは名前がバレた時、

2つ目は呼び出した本人が生きたいと

願った時、最後は君達の願いが叶った時だよ」

真剣に語る女性はこちらを見て、応える。


1つ目と2つ目の意図なんてのは、何となく

分かる気がする。けど、それ同時に

君達の願いが叶った時?死んだ時…

ではないのか?そんな事を考えていると、

最寄りの公園に着き、女性が土管に腰を下ろす。


「正義なんかも、曖昧な世界なんだし、

心配してくれる誰かが居る以上、

難しい事を考えずに楽しく生きるのが

良いと私は思うけどね」

皮肉を交えながら語る女性、死神と思えない

その言葉は何処か、心に刺さった気がする。


「小説みたいに、結末が1つな訳ではないし、

仮に1つの小説で

マルチエンディングなんて作れたら、

それこそ天才がなせる技って所だろう」


そんな事をふざけて言う彼女は、

先程よりも、楽しく話している様な気がした。


「さて、話が逸れてしまったね。

もし、君達は死んだ後どうしたいんだい?」

女性は真剣な表情で問いかける。


死んだ後なんて考えてもみなかった。

″死″が終わりなんじゃないか?

そう、1人考えているとその女性は続けて、

「どうせ君達の事だ。死んだ後に幸せになろう。なんて事を考えて、いるんだろう?

少なくとも、そう考えているなら

やめた方がいいよ。死神も元を辿れば

ただの人間だからね。それに、

死んだら選択肢なんて無いし、

死んだ後に幸せになるんじゃなくて、

生きて幸せになるって選択肢も

あるんじゃないかな?」


考えてもみなかった。なんてのは、

ただの強がりだったかもしれない。

それと同時に…


「今、少し生きてみようと思った。だろう?

別に、特別なんかじゃなくても良いんだ。

それに、誰かと比べられる必要も無い。

自分らしさを貫き、生きる。

君達の結末なんてのは決まってない。

何故なら、まだ物語の途中に居るのだから」


自分の言いたい言葉を見透かされると

同時に女性は言葉を続ける。


「君達は勘違いしているだろうが、

死神は殺人鬼とは違うんだ。理性があって、

それぞれの価値観がある。だからこそ、

無駄な命は奪わないし、こうして、

寄り添うのも仕事の1つなんだ」


そう女性は語ると、体が消え始めている

事に気付くと女性は笑って

「あぁ、ごめんね。そろそろ時間だ、

またいつか会おう」


女性は立ち上がると思い出したかのように

こちらを見て、振り返る。

「私の本当の名前は…」

その瞬間、風が吹き、声をかき消す。

それと同時に女性は消え去った。


あの女性は結局なんだったのか、

今となっては聞く相手すら居ない。

そんな事を考えながら家に帰る。

「久しぶりに学校にでも、行こうかな…」

そう思い、明日の準備を行った。


────────────────────


学校へ向かう途中、昨日の女性が頭を過ぎる。

「あんな人が先生だったら、少し位…

変われるのかな?」

そんな事を考えながら向かう。


周りからの視線を感じる気がすると同時に、

「お久しぶり!元気だった?」

と、1人の少女から声をかけられる。

名前は覚えていないが、自分の事を、

心配してくれていたのだろう。


その少女と、少し話をし、朝礼が

始まるのを待つ。

「皆さん、席についてくださ〜い」

先生の声が教室に響き渡り、

みんなが席に座る。


「えー、めんどくさーい!!先生の授業

面白くないもーん!!」

1人の少年がそう言うと、先生は笑って


「私じゃなくて、今日から新しい先生に

来てもらいま〜す!入ってきてください!」


ドアが開き、1人の女性が教室に入ってくる。

「あっ…」

その姿を見て、ふと声を漏らす。

銀色の髪に、白く透き通った肌、

宝石のように赤い瞳を持つ、

女性の姿であった。


「はじめまして、今日から担任をさせて

もらうことになりました。名前は…」

自分にとって、新しい何かが始まる

予感がした。

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