七咲リリィの七転八倒

夏川冬道

第1話

 七咲リリィは激怒した。必ず邪智暴虐の後輩Vtuberを除かねばならないと思った。事件の発端は何気ない飯テロ画像だった。その後輩、綿貫イリアは飯テロ画像をLINEで放流する悪癖があり、イリアは悪気なくパスタ画像をlINEに放流したのであった。その画像を見たリリィはたちまちパスタを食べたくなったのだ。しかし、時間は既に深夜を過ぎパスタ屋は店を閉めていた。

「おのれ、イリア! 深夜の飯テロは重罪だぞ!」

 七咲リリィはスマホに向かって吠えるしかなかった!


◆◆◆◆◆


 ――数日後、某パスタ店。

 テーブルの一角に七咲リリィの姿があった。LINEパスタ放流事件以来、パスタを食べる機会を伺い、本日パスタ店にリリィは来店したのだ。

「見てろよ、イリア。私だって飯テロ画像を放流できるんだぞ」

 配信で視聴者に主にコメント欄でよく言われているポンコツクイーンは返上だと意気込む七咲リリィだ。リリィはまずメニュー表を穴を空けるように眺めどのパスタを頼もうかを考えてみる。ジェノベーゼかカルボナーラか、はたまたミートソースか。リリィはどれも捨てがたく目移りそうだった。

「どれを頼めばいいのかわからないぞ……」

 どのメニューも美味しそうなのが悪いと言いたげな瞳で見るリリィだった。するとリリィの視線にチキンとほうれん草のクリームパスタという単語が現れた。

「チキンとほうれん草のクリームパスタ……キミに決めた!」

 七咲リリィはなめらかな動作で店員呼び出しボタンを押した!すると店員がボタンを押したことを感じ取りリリィのテーブルに駆けつけた。

「チ、チキンとほうれん草のクリームパスタをください」

 リリィは若干どもりながらも注文に成功した! リリィには安堵した。引きこもりがちのリリィにとっては注文すること自体が大冒険なのだ!

「見たか! 私にも対面で注文できるんだぞ!タブレットがないと注文もできないとコメントしたやつは泣いて謝れ!」

 極めて低レベルな勝ち誇りをするリリィだった。


 晴れやかな気持ちで注文を待つリリィ。

「ルルル〜♪」

 思わず鼻歌が出てしまっていた。それほどリリィはご機嫌だった。

 その時、LINE着信が鳴り響いた。差出人はイリアだ。

(こいつ、何というタイミングでLINE着信を!)

 リリィは戦々恐々とした気持ちでLINE画面を見る!しかし、LINEの内容は飯テロ画像ではなく今度のコラボ配信の業務連絡だった!安堵する七咲リリィ! 安堵のあまりだらしない表情を見せた!

「お待たせしました。チキンとほうれん草のクリームパスタです……フフッ」

 折り悪くウエイターが現れリリィのチキンとほうれん草のクリームパスタをテーブルに差し出した!リリィのだらしない表情を見て思わず吹き出してしまった。リリィはいたたまれない気持ちになった!

 リリィはウエイターに軽く会釈した。ウエイターは会釈を返すとそのままその場を去っていった。

 ちょっとしたトラブルがあったがいよいよ実食の時間だ。リリィは抜かりなくチキンとほうれん草のクリームパスタの画像を撮影した。

 うまく撮影できたか確認するとフォークでパスタを絡め取り口に入れた!

「こ、これは!」

 七咲リリィに電流が走った!

「クリームソースのまろやかさにチキンの濃厚な旨味が走りそしてほうれん草の優しさがもたらす三位一体の美味しさが五臓六腑を走り出すような美味しさ!」

 リリィは一心不乱にチキンとほうれん草のクリームパスタを食べ進んだ。その勢いはブルドーザーもかくやという速度だった!

 チキンとほうれん草のクリームパスタを完食したリリィは誇らしげな表情だった。


◆◆◆◆◆


 七咲リリィはチキンとほうれん草のクリームシチュー画像をLINEに送る準備を整え深呼吸し精神を整えていた。震える指先を抑えながらLINE投稿ボタンを押す。無事にLINEに画像投稿され一安心するリリィ。数分後、綿貫イリアから返信が来た。

『この店、美味しいよね♪』

 七咲リリィはスマホを思わず取り落としていた!イリアはすでにその店に来ていたのだ!

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七咲リリィの七転八倒 夏川冬道 @orangesodafloat

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