第31話
「今度はあちらからやってみましょう」
俺はカップの反対側へ誘う。
「ほぉ、どの方向からでも遊べるのか」
「はい。それに方向が変わると芝面の傾斜や凹凸も変わりますので狙い方が変わりますよ」
「うむ」
「この辺が凹んていますね」
「ここは膨らんでいますね」
芝面を二人で見ながら三メートルほど進む。そこへニーデズが小さなフラッグを立ててくれた。
「では、俺が先にやってみますね」
こうして俺たちは二時間ほどそこで遊んだ。
母上がそろそろ限界だろうということで父上と母上は屋敷へ戻ることになった。
俺は父上に小さく呟く。
「父上。俺の十二年計画では、このパターガルフも規模を大きくします。さらに、ドライバーとパターを組み合わせた遊びも考えております」
「なにっ!?」
「ですから父上のこの遊びは決してこれだけの遊びにはなりませんので、手の痛みが治ったとしても時々はこちらで遊んでくださいね」
「よし、わかった!」
「次はわたくしもやりたいわ。貴方、慣れてきたらわたくしに教えてくださる?」
アンバサダー母上は素晴らしい! 母上は今日はドレスにヒールだったためできなかった。
「もちろんだ。ワシがコツを掴むまで少しだけ待ってくれ」
「うふふふ。楽しみだわ」
二人は仲良く腕を組んで屋敷へ向かった。
父上と母上を屋敷へ戻らせてからニーデズとネンソンたちとで反省会議を開く。
「フユルーシ様が何をなさりたいのかがわかりました」
ネンソンには詳しく説明もせずにパッティンググリーンを作ってもらったのだ。とりあえず芝を六ミリ程度にしてもらっただけなので所々に穴があったり盛り上がりがあったりする。
芝生の長さとしては長めだが、ハサミだけで刈っているのだから上等だ。
「どうしてもボールは真球体にならないからね。真っ直ぐに転がすことができやすいように、芝面はこのような穴とかはない方がいい」
「では、できるだけ真っ直ぐにします」
「いや、それではつまらないんだ。小さな穴は困るけど大きく見て傾斜はほしい」
ニーデズがノートに絵を書く。
「ネンソンさん。例えば、この辺からゆるい傾斜にできますか?」
「ゆるいというとどのくらいですか?」
「当分カップの位置を変えないとして、カップから五メートル先が十センチほど上がっているといいですね」
さすが数字系が得意なニーデズだ。
グリーンの設計はニーデズに任せて俺はパッティングの練習をした。
グリーンとノートを使い二人であれこれとやっている間に弟子たちが小さな穴を埋めていく。
しばらくしてネンソンが声をかけてきた。
「フユルーシ様。ニーデズ様のお話を聞いたところだとカップの位置を変える予定があるのですか?」
「ここでは変えないかもしれないけど、遠い計画では変えることもあるね」
「では、パレットでの芝の育成を増やしておきましょう」
「そんなことできるの?」
「はい。ガルフセンターの芝維持ために温室で芝の育成をしております」
父上たちが午前中にお茶をした温室は優雅に時間を過ごすための物だ。それとは別に庭師たちが庭園を彩るため用の植物を育てる温室がある。
「そっかあ。いつか温室も大きくしないとダメかもなぁ。とにかく今はたくさんの芝を育てておいて。いつか大量に使うから」
「かしこまりました。フユルーシ様とお仕事をさせてもらうと新しいことばかりでワクワクします」
「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいよ。ネンソン。仕事が増えて大変になったらすぐに人員を増やすから遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます。それほどの仕事があるとは楽しみです」
ネンソンは日に焼けた顔でにかりと笑った。
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