第30話
午後になり父上を屋敷から五分ほど離れた芝生エリアへと連れてきた。父上の怪我を心配した母上まで着いてきたので急遽テーブルセットと日傘を用意してもらう。
「これはなんだ?」
「パッティンググリーンと言います。ボールを軽く打つ芝生面です」
午前中にネンソンたちにやってもらったのはパッティンググリーン作りだ。時間もなかったので半径五メートルほど。
「ほぉ?」
「これはパッティングをするためのパターという道具です」
パッティングという言葉は軽く叩くという意味で広く使われている言葉なので受け入れられるはずだ。
テレストに頼んでおいたパターが二本前日の夕方に届いたのでもってきてよかった。
「このパターを使ってボールを転がしてあの穴、カップに入れます」
カップはボールの三倍近いほど直径十五センチと大きい。
「うむ。やってみよう」
父上はカップから三メートルほど離れたところに無造作にボールを落としてそれを打った。カップにかすりもしないボールはグリーンをオーバーして長い芝生で止まった。
「ん? 上手くいかんな」
「俺がやってみますね」
俺はまずボールをよく見る。革でできているボールは決して真球体に近い物ではない。繋ぎ目もあるし革の厚さもある。それを見極めてなるべく真っ直ぐに転がりそうな面を見つける。その面を目安にカップに向かってボールをセットした。
もう一度ゆっくりと狙いを定めて目標を決めたらパッティングホームをとる。力具合を考えてパターを打った。
カップへ向かったボールは残念ながらカップの脇を通り二十センチほどカップから離れた。
「おしいわねぇ」
母上が声を出す。
前世より断然に難しい。即席グリーンは平らではないし、ボールも真球体には程遠いので当然だ。だからこそカップは大きくしてあるのだ。
俺はボールのところまで行き、二十センチを沈めた。母上がパチパチと拍手をしてくださる。本当に盛り上げ上手で助かる。
「父上。パッティンググリーンではサポーターはボールを置いてくれません。なぜなら、ボールをどう置くかもしっかりと見極めないといけないからです。できるだけ真っ直ぐに転がりそうな面を見つけるのは至難の業ですよ」
「どれ、見せてみろ」
ニーデズが父上にボールを二つ渡した。
「うん。こちらの方が真っ直ぐに行きそうだ」
父上はボール一つをニーデズに返し、今度は慎重に置いた。
今度は力を加減したパッティングでボールは一メートル手前で止まる。
「もう一度だ!」
父上はその場からもう一度打とうとニーデズに手を伸ばす。
「父上。今度はあの場所からやります」
父上のボールに合わせてチップを置きボールを父上に渡す。
「もう一度、真っ直ぐに転がりそうな面を置いてください」
「よし」
真っ直ぐに転がったボールはあと三十センチのところで左へ曲がってしまった。
「ほら、ここ辺りの芝面が高くなっていますよね。さっき俺が打ったボールもこちらへ転がってしまいました。それも考慮しなくてはいけません」
「なんと難しいものだ」
父上は今度は自分でチップを置き、ボールをセットし直す。少し強めに打ったボールはカップに吸い込まれた。
「よしっ! 入った!」
「貴方。お上手ですわ」
母上は嬉しそうにパチパチと手を叩く。
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