第21話

 結果的に母上はそれはもう優秀なアンバサダーだった。

 今日、母上とオータミィ義姉上には乗馬服にブーツ姿で来てもらっている。


 俺が母上をティーエリアにエスコートする間にメッセスが母上用に用意したドライバーを持ってきた。


 この世界の女性はとにかくか弱く腕力もない。

 ドライバーはシャフトの長さを短くしてヘッドを小さくし表面の角度を大きくした。


「母上にも楽しんでもらいたくて用意しておいたのです」


「嬉しいわ。でもわたくしにできるかしら?」


「ボールに当てるだけでも楽しいですよ」


 母上に握り方を教えて打席に立ってもらう。俺はボールの側に座り母上のドライバーのヘッドを持った。


「母上。俺が『はいっ』と言ったらボールに向かってドライバーを下ろしてくださいね」


「わかったわ」


 俺は母上の持つドライバーのヘッドを母上がするべきテイクバックの軌道で母上の腰高まで持ち上げた。


「はいっ!」


 言うと同時に手を離す。


『ポフン』


 ボールは二十メートルほど飛んだ。


「「「「ナイッショー!」」」」


「貴方っ! ご覧になりまして? わたくしのボールが飛びましたわ」


「おお! すごいな!」


「フユルーシ様。わたくしもやってみたいわ」


 オータミィ義姉上が思わずと声を出す。メッセスが女性用ドライバーを持っていき、ニーデズが俺と同じようにやる。


『パフン』


「「「「ナイッショー!」」」」


「きゃあ! 当たったわ! 飛んだわ!」


「オーティ! 凄いじゃないか」


 アキオード次兄もオータミィ義姉上の笑顔を見て嬉しそうに笑った。


「もう一度。お願い」


「かしこまりました」


 ニーデズがオータミィ義姉上の世話をやく。


「わたくしももっとやりたいわ」


 いつの間にかティーエリアまで来ていたウルトがアキオード次兄をオータミィ義姉上の隣のボックスへ誘い、メッセスが父上を母上の隣のボックスへと連れていった。


 四人は夢中になってボールを打った。


『プウォーン』


 ラッパの音が鳴る。


「暫く休憩時間です。チェアにどうぞ」


 メッセスが言うとメイドがタイミングよく冷たい飲み物をテーブルに置いていく。楽団が心休まる曲を奏でる。


「まだまだできるぞ」


 父上が少し不服そうに言った。


「このセンターでは毎時零分から十五分間は休憩時間としております。

プレイヤーのお体のためと、ボールの回収のためです」


 フィールドを指差せば、使用人が背負い籠とトングでボールを回収している。


「メリハリがあっていいではないですか」


 アンバサダー母上が俺のエスコートでチェアに座り早速飲み物に手を伸ばす。


「まあ! 美味しいわ。レモンがスッキリとしているわね」


 父上は一気飲みした。


「うん! 美味いな!」


「うふふ。お天気もいいし、気持ちいいわねぇ。お庭でのお茶とまた一味違うわ」


「お体を動かされたことが良いスパイスになっているのですよ」


「確かに、ダンスと乗馬以外でこんなに体を動かしたのは初めてかもしれないわね」


 それから休み時間が終わるまで四人はガルフを褒め称えてくれた。


『プウォーン』


 音楽が止みラッパが鳴った。


「わたくしはもう充分だわ」


「ワシはまだやれるぞ!」


 父上とアキオード次兄は次のラッパまで打ちまくった。

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