第20話

 二人はクリケット経験者だ。俺のように飛ばす方向に左肩を向けるのではなく、思いっきりヘソを向けていた。

 これはメッセスたちに教えた時からクリケット経験者のくせだとすでに確認済み。だが、自分でドライバーを振ってみなければそれでは当たらないことをわからないものなのだ。


 クリケット打者のように正面を向いたスイングの二人は当然空振り。


「「「「どんまい!!」」」」


「「まあ!!」」


 俺の実演打を見た後だから母上とオータミィ義姉上が声を漏らす。


「フユは練習しているからだっ!」


 父上は母上に向かって思いっきり言い訳した。


「そうですよ。父上もすぐに当たるようになります」


 俺もヨイショとばかりに強く肯定する。


 だが、父上もアキオード次兄も五球ほど試すが当たらないし、当たってもチョロである。やっと教えろと言ってきた。


 俺は父上のボックスに立つ。メッセスがボールをセットしてくれる。


「まず大切なのは立ち方です。ボールにヘソを向けるように立ちます。

そして、初めは大きく降ってはダメです」


 ハーフスイングの素振りを見せる。スタンスを取って腰の高さにドライバーを上げて振り下ろす。フォローは勢いに任せてドライバーを上げるので腰より少し上くらいになる。

 いわゆる手打ちだが、まずは当てて飛ばすことが楽しいことを知って欲しいので充分だろう。

 後ろではニーデズがアキオード次兄にそのように教えているはずだ。


〰️ 〰️ 〰️


 ニーデズと前世のゴルフの話を始めると沢山のワードが飛び出した。


 ボディターン――捻転――、アームローテーション――手打ち――、スライス、フック、ドローにフェイド、などなど。


 ゴルフならではの用語も沢山思い出した。


 新しいワードが出てくるたびに二人でハモって二人で笑った。


 そして、結論として


『手打ちでいいじゃないか 当たるんだから』


となった。


〰️ 〰️ 〰️



 俺は手打ちのハーフスイングをしてボールに当てる。


『パシッ』


 それでも七十メートルほどは飛んだ。


「よし、やってみるぞ」


 俺のハーフスイングは簡単そうに見えたようで父上がやる気になった。


「ふんっ!」


 父上がドライバーを振るがチョロる。


「「「「どんまい!!」」」」


「父上。ボールの行方を頭で追ってはいけません。まずは確実に当てましょう。

ボールのある所だけを見て頭は動かさないでください」


「よし」


『パコン!』

「「「ナイショーッ!!!」」」


 父上のボールは四十メートルほど飛んだ。


「見たかっ?!」


 母上に顔を向けると母上はパチパチと手を叩いていた。


 おいおい、父上よ。それは俺に言おうぜ。母上に聞くってどれだけラブラブなんだよ。


 父親への呆れの気持ちを隠して俺も拍手を送る。両親の仲がいいのは嬉しいけど恥ずかしいものだ。


「父上。俺の方が飛びましたよ。俺の勝ちですね」


 隣のボックスから嬉しそうな声が聞こえた。父上が悔しそうに奥歯を噛む。 


「アキ兄さん。それは違いますよ」


 俺はにっこりと笑った。


「これは個々で楽しむ遊びなのです」


 四人の顔にはハテナマークが付いている。確かに飛距離というのは競争になりやすい。


「これは趣味としての読書と同じなのですよ。アキ兄さんは誰かと読むスピード競争をしますか?」


「しないけど」


「父上はご自分の好きなジャンルを母上に強要しますか?」


「するわけないっ! まあ、興味を持ってくれたらいいなぁ程度には話す……な」


「ガルフでは、個々で目的が異なるのです。 飛距離もあり、同じ所に打つようにするのもあり、右や左に狙い打ちするもあり、ただただ打ちまくるのもあり。

だから、アキ兄さん。父上に飛距離競争を強要してはいけませんよ」


「まあ! それでいいのならわたくしもやってみようかしら」


「母上! 是非やってみましょう!」


 俺は母上をエスコートした。

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