第14話

 領地のガルフ練習場へ行った後、ニーデズを頻繁に家へ招待し、遅くまで案を出し合った。

 そして、週末になると父上に紹介してもらった街中の工房へと向かう。


 今日はテレストとは別の木工工房へとやってきた。テレストの店にはドライバーに集中してもらうためティーの発注は他の店に頼むことにした。テレストも俺の発注だけをするわけではないからね。


 見本をテレストに作ってもらいそれを持っていく。最初は驚いていたが、二千個発注すると喜んで受けてくれた。


 それとは別に背負い籠を二十個ほど注文する。


 次に鍛冶屋へ赴いた。目的の物はすぐにあった。


「これを十本」


「毎度ありがとうございます。でき次第お持ちいたします。ガーシェル公爵様は栗林でもお買いになったのですか?」


 そう、今回買いに来たのは栗拾いセットだ。ここでは柄の長いトングを注文した。


「うん。まあねぇ。

ここにある二本は先にもらっていくよ」


 説明が面倒なので相槌を打っておく。


 もちろん、拾うのは栗ではなくボールだ。

 前世のようなボールならトングでは取れないが、今は革製なので取ることができるのだ。

 いちいち屈むより楽に違いない。


「まだ秋には早いですよ。ガハハ」


「だけど、そこへ持っていく都合があるから早めに頼むよ」


「かしこまりました。いつもご贔屓にしてくださるガーシェル公爵様ですから、特急でお作りします」


 三十代で調子のいい鍛冶屋だが、腕は確かだと父上からは聞いている。


 馬車に乗り込む。


「フユルーシ様。鍛冶屋を見て思い出したのですが、サウスポー用ドライバーはどうしますか?」


 ニーデズは鍛冶屋の動きを見て思い当たったという。


「ゲッ! ハルベルト兄上は左利きだ! 用意しておかないとやばいっ!」


 テレストの工房へ戻り左利き用を十本注文する。


「とりあえず二本ほどすぐにお持ちしますか?」


「ハルベルト兄上を呼ぶのはまだ先だから大丈夫だよ」


「かしこまりました。

ところで、フユルーシ様。この表面の角度なのですが」


 テレストがフェースを撫でる。この世界では表面としている。


「角度を十度の物だけでなく、二十度の物も作っていいですか?」


「それは、ダメですね!」


 ニーデズが即座に反対した。


「角度を変えるなら十三度にしてください。ですが、テレストさんの着眼点は素晴らしいと思います。飛び出しのボールの角度によって飛距離は変わりますからね」


 反対されたことに狼狽えていたテレストにすぐさまフォローを入れるニーデズ。


「確かに我々のボールはフユルーシ様やニーデズ様のように上へ飛びませんでしたね」


 ウルトが頷く。


「つまり二十度はやりすぎなのですね」


「上を向きすぎてフライになってしまうと飛距離はでませんからね」


 メッセスも納得したようだ。


「それにしても、すぐに答えられるニーデズはすごいね」


「僕、物理学は得意なのです」


 ニーデズが照れ笑いしていた。最初に十度で発注したのもニーデズのアドバイスだ。


 再び馬車に乗り込む。ニーデズに物理学の話を聞いた。


「丁度教授の研究の手伝いをしていたのです」


「何を研究しているの?」


「弓を効率よく使う方法です。どの角度で打てば遠くに飛ぶか、または威力があるか、的に当てられるか」


「ふーん。弓も競技みたいだね」


「実際は獲物は動くので役にはたちませんが」


 二人で笑う。


「でもさ、そういう研究って急に何かに繋がったりするから、無駄ではないよ」


「ええ。今回、ドライバーの表面角度に繋がりましたね」


 本当に勉強はしておいて損はないよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る