第2話
「これっていわゆる転生ってやつなのかねぇ?」
誰に話すでもなく口に出した。
メイドによって軽食や茶を片付けられたソファテーブルに足を投げ出す。後頭部に手を回したらタンコブに触れてしまい自爆。
仕方なしに肘を膝に乗せ前のめり気味になる。人差し指を自分のコメカミに当ててグリグリと押す。
「かぁ〜効くぅ」
ジジ臭い行動にジジ臭いセリフ。
『あ〜、俺、アラフィフだったわぁ』と思い出す。
とはいえ、前世と思われる記憶はとても断片的で曖昧で意味を成すとは思えない。この世界での十六年の方が鮮明だ。
「そうだっ! チートチート! 神様は俺に何をくれたのかなぁ」
ワクワクしてこの十六年を振り返った。
「…………何にもなくないか?」
この世界に魔法はない。
俺には特に秀でた事もない。
そういえば、算術学は得意だ。掛け算の答えが頭にスッと浮かんでくるのは、前世と思われる『日本』という国での教育の賜物だったのだと実感。だが、それは記憶の一部であってチートではない。
物覚えもよく、要領良く立ち回れるのは三男坊であるというだけでなく、『日本』で高等教育を受けた影響なのかもしれない。つまりはそれも記憶の一部に過ぎないということだ。
成績は優秀な方だが、天才というわけではない。運動神経は……悪い。
容姿は優れているが、うちの家族全員が優れているのでチートとは言わない。
容姿が優れているから女の子たちは興味を持ってくれるが、口下手なせいで怖いと思われているようで近寄っては来ない。女の子たちにとって眼福人形と化している。
「コミュニケーションスキルがほしかったなぁ」
魔法や現代高度文明もない世界にチートを何も貰えず転生したようだ。
もしかしたら、どこぞの誰かが書いた小説の一部なのかもしれないが、読み込んでいたわけじゃないから知らない。
「元一般社会人の男。チートもなしで何もできないっつうの」
俺の前世が科学者とか、医療従事者とか、スーパー主夫とか、専門家とかなら何かできたかもしれない。だが、薄っすらと自動車を運転している自分が浮かぶ俺は何かの運転手だったのかもしれない。
「車はないから使えないなぁ……」
少しばかりがっかりしたが、フユルーシとしてこれからもこの調子で生きていくだけだと考え直した。
そして、改めてフユルーシの十六年を振り返る。
この世界は髪の色や目の色はカラフルでそれだけでも異世界なのだと思わせる。ちなみに我が家は緑系の髪か銀髪、オレンジ系の瞳かグレー系の瞳だ。
言葉は『日本』という国に深く関わるようで、所謂『和製英語』と呼ばれる語彙も普通に使われている。文字も日本語と同じ。
時間軸も同じ。
「んー、と……。学園が土日休みっていうのは現代風なのかな?」
俺が前世で学生をしていた頃は小中学校ともに土曜日は半日授業だったと思う。
一つ一つを思い起こすように考えねば頭に浮かばないほど記憶が曖昧だ。
学術レベルは今の俺の年齢十六歳で『日本』の中学並ではないかと思うほど簡単だ。さらに、平民は文字の読み書きはできない。そんなところは中世時代的になっているようだ。
服装や身分制度は中世ヨーロッパ風。この時代の日本に合わせるなら着物であったろうが、この世界では貴族は豪華なスーツにドレスだ。
前世と今世の混同は十六年この世界にいるので今更違和感は感じない。
「前世を少しばかり思い出しても意味ないな。なるようになるし、今までもなってきたし。
ハァ~寝よ寝よ」
俺は湯浴みもせずにベッドへダイブした。
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