うるてん

稲松孝志

第1話 パイで祝おう

 ここ、日本のとある場所に一人の少年がいた。この少年の名は金玉田大助きんたまだだいすけ、この春に高校に入学したばかりの16歳である。あの金玉田家きんたまだけの一族の一人である。といっても誰も知らないだろう。でも大丈夫、いつか知ることになるのだから。

 今日は兄が入学祝いにパイを食べさせてくれるらしく、兄の経営する店に向かっている最中であった。


 「兄貴がパイを食わせてやるから店に来いよって言ってたけど、まさか店を開いていたなんて全然知らなかったなぁ。家に全く帰ってこないから、どっかで遊んでばかりいると思ってたけど」


 大助がひとりごとを言いながら歩いていると、気付けば兄に教えられた住所の近くまで来ていた。


 「このあたりだと思うんだけどなぁ。あっ、ここだ」


 大助は兄の店が入っていると思われるビルの中に入っていった。しかし、洋菓子屋のような店なんてまるで無い。あたりをしばらく探していると、兄が扉を開けて出迎えてくれた。


 「遅かったなぁ大助! 高校生にもなってまさか迷子になってたわけじゃないだろうなぁ?」


 「いやいや店の看板なんて無いし、そもそも洋菓子屋っぽい店なんてどこにも無いじゃん! つーかさ、店の名前ってなんて言うのさ?」


 「よくぞ聞いてくれた! ようこそ『ぱいずりてんごく』へ!」


 大助はすぐに気付いた。こんなビルの一室に看板も無いお店、店名は『ぱいずりてんごく』。洋菓子屋の雰囲気なんて全く無いのだ。


 「絶対に風俗店じゃねーかっ!? パイ食わせてくれるって言うから洋菓子屋だと思ってたのに、全然違うじゃん! 家にも帰ってこないでこんな所で働いてたのかよっ!?」


 「何を勘違いしてるんだ? ここは風俗店なんかじゃねぇ。可愛い女の子にパイを食べさせてもらえる清潔感溢れる飲食店だぞ」


 「でも店の名前は『ぱいずりてんごく』なんだろ。パイズリって言ってんじゃん。何も誤魔化せてねーよ」


 「何を言ってるんだ? 水着姿の女の子にパイをアーンで食べさせてもらえて、そんで女の子がちょいとスベってお前にもたれ掛かっておっぱいに股間が挟まっちまうだけだろ」


 「思いっきりアウトだわっ! それをパイズリって言うんだよ! つーか俺、16歳の高一だぞっ! 駄目じゃねーかっ!」


 「馬鹿だなぁお前は。よーく考えてみろよ。パイを食べさせるときにただ滑って、そんときにおっぱいに股間が挟まっちまうだけだろ? これは事件ではなく、ちょっとした事故なのさ! このハプニングはお互いに許して和解しちまえば何の問題も無いのさ! どうだ大助? お巡りの出る幕なんざ無いのさ!」


 兄のとんでもない発想に大助は開いた口が塞がらなかった。無理矢理にでも抵抗して帰ろうとする大助だが、気付けばパンツ一丁の姿にされて、アイマスクの装着、椅子に固定されて身動きが取れない状態になっていた。まさに今から拷問でもされるかのごとく変態的な姿にされていた。


 「なんなんだコレはっ! なにをするつもりなんだっ!」


 「まぁまぁそんなに焦るなよ大助。今日は当店のエースの娘を呼んでいるから、ちょいと待ってな。言っとくけど絶対に女の子に触るなよっ! ボディタッチしたら犯罪ざからなっ! ウチはそういう店じゃねーんだからよ。お前はそのまま受け身のままでいてくれりゃいいからよ」


 兄は無茶苦茶なことを言って部屋から出ていった。今は開店前の時間らしく、他に人がいるような気配を全く感じ無い。少し待っているとハイヒールのような靴音がだんだん近付いてきて、大助が拘束されている部屋の扉が開いた。


 「ごめんなさい、待たせちゃったわね。あなたが店長の弟くんね。私はアミって言うの、よろしくね」


 大助はアイマスクを装着させられているため、どんな女性なのかはわからないが一つだけ確かなことがある。絶対に美女だ。声を聴いただけでわかる。可愛い系の声ではなく、美人系の声をしている。


 「ち、違うんです!こんな格好してますけど兄にさせられただけなんです!」


 「あぁ大丈夫ですよ、気にしなくて。このスタイルが当店のスタイルですから」


 どうやらこの店では、客は皆この格好にさせられるらしい。詳しく聞いてみると、男性客から女性へのボディタッチは完全NG、一目見るのも駄目らしい。だからアイマスクを装着させられている。兄の説明も中途半端で適当なものである。


 「早速だけど、今日はどのパイを食べに来たの? 何種類かあるんだけど」


 「いやあの、確かにパイを食べに来たんですけど、今そういう状況じゃないっていうかですね」


 「私のオススメはチェリーパイなんだけど、コレで良いかしら。さぁ口を開けてちょうだい」


 このアミさん、結構グイグイくる。人の話も聞かずにさっさと終わらせたいかのようにグイグイくるのだ。


 「あらやだ、ごめんなさい。足が滑っちゃったわ」


 これは兄から聞いていた話のままである。アミさんが足を滑らせ、大助にもたれかかってしまい、見事に絶妙に大助の股間がアミさんのおっぱいに挟まれてしまったのだ。さすがぱいずりてんごくのエース嬢。

 このハプニングで大助の股間を挟んでしまったアミさんのおっぱいは、上下に、左右に、円を描くように動いて動いて動きまくり、童貞の大助の股間を刺激する。


 (な、なんなんだ! この絶妙なパイズリズムは!)


 アミさんのパイズリズムにより刺激を受けていた大助は、激しさのあまり気を失ってしまい、それと同時に大助の股間が突如光りだした。





 ふと気が付くと大助は、知らない場所にいた。拘束も解けており、体が自由になっていた。


 「ここはどこなんだろう。つーか、なんで全裸なのっ!? パンツだけは履いていたはずなのに」


 大助の体は真の自由を手に入れていた。全開放である。驚きのあまりパニックになる大助であったが、大助の目の前に一人の女性が現れた。


 「あなたは一体誰なんですか?」


 「私は女神『クギミール・キャラメリゼ・パンナコッツァ・プディング・クリミィ・ティラミシュ・リエリー』と申します。皆は私のことを『リエリー』と呼びます」


 (じゃあ最初っから『リエリー』で良くない? もう『リエリー』以外全部忘れたんだけど)


 「すいませんリエリーさん。ここはどこなんですか?」


 「ここは人間界で亡くなられた方と、面談をする場所となっております」


 「え? 亡くなられた方って、俺って死んだんですか?」


 「はい、その通りでございます」


 「えっ!? なんでっ!?」


 大助は取り乱した。どうやら死んだらしいのだが、死に至った原因が全くわからない。覚えている最後の記憶は、兄の店でパイズリをされて最高に気持ち良くなっていたことだ。


 「リエリーさん! なんで俺は死んじゃったんですかっ!?」


 「あなたの死因はですね、体内から魂が抜けてしまいまして、ただそれだけであればすぐに魂を戻すことはできたのですが……」


 「じゃあなんで俺の魂は戻してくれないんですか?」


 「あなたの場合、魂の入る器が特殊な場所にありまして……」


 「えっ、どこなんですか?」


 「タマです」


 「タマって?」


 「金玉です」


 「えっ、金玉!? 本来は魂ってどこに入っているものなんですか?」


 「本来であれば人間の魂の入る器は心臓なのですが、あなたの場合は性欲が強すぎて、たまたまタマタマ金玉タマタマが入っていたのです」


 「えっ嘘でしょっ!? そんなことがありえるんですか!?」


 「今回の件は私も初めての経験でしたので、魂の戻し方がわからず、申し訳ございませんでした」


 どうやら大助の死因は、金玉タマからタマが抜けてしまったためであり、リエリーはタマ金玉タマに戻す方法がわからず蘇生できないでいるらしい。

 リエリーがどうすれば良いのか暫く考えていると、今いるこの空間に何らかの原因で時空が歪み始め、二人の姿はこの場所から消え去ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うるてん 稲松孝志 @inamatsutakashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ