千昼一夜物語

千日紅

第1話 過飽和

「いつもとおんなじだね」

「…」

「いつもとおんーなじ。」




「いっつもじゃん。学校フルで行っては、疲れたー疲れたー身体が痛い痛いって。何回くりかえすの。

 早引きか遅刻して半分だけ行きなっていってんのに、無理して1日行って、明日休むって。

 機嫌悪くなられるこっちの身にも…」


 …うるさいねん。

 私は早退するのが苦手だ。

 心配してるのか、責めてるのかどっちなんだ。もうやめたい。お腹いっぱいだ。

 高校生になってから、自分の気持ちがよくわからない。友達も家族もいて、お金も困ってない。なのに、なぜ学校へ行くことがこんなにも大変なのか。必ず体調を崩し、背中が痛いすぎて授業を受けられない始末。こころの面が、いけないのか?それも、なぜ。だいたい痛いのが背中なんて、他人には分かってもらえたもんじゃない。

 関西で育ち、標準語を話す母の影響をうけ、自分の中で、関東弁と関西弁が混在している。関西弁の友達の前では関西弁、その他の友達と母親とは標準語。この状態が、いわゆる二重人格とまではいかずとも、自分という存在に確証をもつ面では良くないのかもとか、まあ、思ったところでというものだ。

 ああ、また考え過ぎてしまった。

 もういい。こんなとき、どうすれば良いのか、知っている。静かに部屋を出れば良いのだ。

 なんてハードルの低い、そして私は身につけるのに長年を要した、決して簡単な動作にして簡単な行動ではない。



 一階に下りると、お兄ちゃんがいた。

 3歳年上、養子のお兄ちゃん。

 私が部屋に入ると、テレビから目を離すことはなく、でもソファーを広く空けてくれる。

 私の心の異様には気づいていない様子だ。




 数十秒間か、しばらく時が経って、感情に表面張力のかかった、私の心は喋り出す。



「私はもうさ、ゴシキタイランチョウになってどっかへ飛んでいきたい。」



 思いの外なめらかに話し出した私の心は、流れ出した感情の流れには決して対応できなくて、こころのフチにある、いわばダムのようなものが、余計に流れの勢いを強めてしまい、最後の言葉はあと少しで震えてしまう。



 開け放たれた障子の向こう、隣の和室のベッドに、私は無理に勢いよく身を投げる。



「飛んで行きたいって、どこに飛んで行きたいんや?おーい」

 お兄ちゃんは大きな声で心配してくれる。





 でもな、お兄。飛んで行く場所はあまり関係ないんだ。

 なんでそこが心配になったのだ。

 ちょっとそこは、やっぱり優しいけど馬鹿だと思った。





 仰向けになり、右腕で目を隠す。赤いリボンを首につけたテディベアの柄、綿の長袖パジャマは、眼から出るこの邪魔な塩水を、何をしなくても簡単に吸い取ってくれた。




…何処へ行くだろう。もし自分なら。






自分なら、何処へ行くのだろう。









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