第35話 出会い 結実の場合 ①
夜半から降り出した雨がみぞれに変わった受験当日の朝、緊張しすぎて心だけでなく手足も冷たく冷え切った私は志望校の教室で、誰も知り合いの無い心細さに泣き出しそうになるくらい不安になりながら佇んでいた。
憧れの先輩を追いかける為に実力以上の志望校を選び、両親からも進路指導の教師からも志望校変更を促されながらも頑張って迎えた今日。
パニック寸前の私は、もうどうして良いか分からずに自分を見失っていた。
もう、ダメ!
気持ち悪くなった私が立ち上がろうとした瞬間、ドカーン!としか形容出来ない鈍い音と共に私の目の前の机が倒れた。
傍らでは、小柄な男子生徒が傾いた体を支えようとして結局倒れて転がっていった。
私より、少しちっちゃいかな?
何故か冷静になれた私は、そんな事を思った。
「いやー、ごめんごめん、本当にゴメンネ?ちょっと緊張しすぎてパニックになっちゃってさ〜?」
足を擦りながら立ち上がった彼は、机を起こしながら、
「筆記用具落としてごめんね。受験なのに縁起でもないよね?万一の時は僕のせいだから恨んでくれていいからね!あ、僕は西中の香坂!」
全部言い終わる前にチャイムが鳴り、試験官の入室と共に彼は自分の席に戻って行った。
そのまま、成り行きで、試験問題を解き始めた私。
最後の問題を読み始めた時、思った。
あれ?私、何に緊張してたんだっけ?
時間ギリギリで解き終わって、受験番号欄と名前欄だけ見直した。
短い休み時間、試験前にトイレに行き損ねていた私が、急いで済ませて戻った教室に入る直前、聞こえてきた声。
「友樹!さっきのわざとだろ!」
「あ、やっぱわかる?」
「なんでまた、そんな事を?」
目立たないように、コッソリ席につき振り返ると声の主はさっきの彼。
え!なんで?わざとって!
再び鳴ったチャイムに声は途切れ、わけが分かないまま試験問題に向き合った。
それが、私と香坂友樹との、初めての、出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます