弱者 価値
仲仁へび(旧:離久)
第1話
俺は進化生命体だ。
ほかの人間どもより体が屈強で、魔法なども使える。
進化生命体はここ数年で劇的に増えてきた。
その数は全人口の二十パーセントにせまる勢いだ。
次の時代の主役となるのは、まぎれもなく俺達だろう。
そして、ただの人間は姿を消していくのだ。
俺たちより弱いのだからそれは、当然のこと。
なのに、俺たちの考え方に反発するものは少なくなかった。
ただの人間などという生き物。
弱者に、どれだけの価値があるというのだろう。
人の役に立つどころか、満足に自分のこともできないのに。
弱者は人の足を引っ張る存在だ。
だから俺は、そんなものを連れて歩かないと決めている。
けれど弱者というものは、あるとあらゆる場所にいて、みんなで仲良しこよしで群れている。
不快な存在なのによく目につくから、煩わしい。
中には進化生命体でありながら、弱者といる変わり者もいた。
「妹の病気を直すために」
「おやじの借金を返すために」
「落ち込んでるあいつをはげますために」
世界にいるお人よし連中は、そんな弱者に足を引っ張られることを嫌うどころか、すすんで関わりに行くことがある。
なぜ、弱者なんてもののために、そこまでできる?
理解できないそれらは、同じ進化生命体などではないように思える。もはや俺とは違う別の生き物に見えてきた。
――弱者。
みかけるたびに煩わしくなるそれを排除しようと思ったのは、人から老人と呼ばれるようになった頃。
自分で自分の面倒も見ていられない、邪魔な弱者や、そんなものと仲良く寄り添うもの――
やつらは社会からいなくなって当然の人間だ。
俺はゴミのようなそれらを、ひたすら葬り去っていく。
すると、正義の肩書を背負った者たちが俺の前に立ちはだかり始めた。
弱者を守るための正義の人間。
やつらは不思議なほど奇妙な執念を破棄して、証拠に残らずこなしていった俺のごみ掃除から、少しづつ手掛かりを見つけ始める。
その技術が、時間が、情熱が弱者などのために振るわれず、自分のために使われれば、もっと様々なことができたはずなのに。
こいつらはどうしてそんな事をする?
何か月、何年もかかって、俺を追い詰めてきたそいつらは、ベッドの上にいる俺を見つめている。
放っておいてももう病で死ぬ体だったというのに。
死ぬ前に罪を償わせるのが大事だとかいう考えで、俺を追い詰めてきた。
「どうしてこの犯罪者はあんな考えができるんだ。理解できない」
「我々が進化したのは、きっと弱き者たちを助けるためだというのに」
そいつらは俺を見下ろしながら、そんな事を言っている。
理解できない点だけは同じ気持ちだった。
考えの理解できないこいつらは、やはり俺とは違う生き物なのだろう。
弱者 価値 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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