仲間との再会と思わぬ出来事
しばらく留守にした店へ向かう途中、自分自身がここまで思い入れがあることに驚かされた。
同じようにアデルたちとの再会を待ちわびる気持ちにも。
やがて、店のある通りの近くまでやってきた。
そこからさらに歩みを進めると、夕日に照らされた自分の店――冒険者の隠れ家――が王都へ向かう前と変わらない状態で佇んでいた。
お客の気配がないことに不安を覚えたが、すぐに冷静になった。
「……そうか、いつも昼過ぎまでの営業だから、ジェイクはそれを守っているのか」
店のことを気にかけるあまり、今まで通りに営業している状態を想像していた。
しかし、そもそもこの時間は営業時間外なのだ。
こんなことを失念してしまうほど、期間が空いたことをひしひしと感じた。
「もしかして、あそこがマルクのお店?」
こちらの様子を伺うような素振りで、エステルがたずねてきた。
俺が感慨に浸ることに気を遣って、すぐに声をかけなかったように思われた。
「はい。店の状態も気になるので、ちょっと寄りますね」
「うん、分かった」
俺はエステルと店の敷地に近づいた。
すると、奥のテーブルにいくつか人影が目に入った。
「あっ、マルクさん!?」
「何だって、マルクか」
「あら、帰ってきたのかしら」
そこにはアデルとハンク、エスカの姿があった。
「ははっ、三人ともくつろいでますね」
「マルク、おれたちだけじゃないぜ。店の中を見てみな」
「えっ、はい……」
ハンクに促されて、店の中へと足を運んだ。
すると、厨房でジェイクが何かの作業をしているところだった。
「店番、お疲れ様でした。王都から戻りました」
「……おっ、あんたか。久しぶりだな」
ジェイクは他の三人に比べるとあっさりした反応ではあるが、俺が戻ることが当然だったというようにも受け取れた。
彼はそこまで愛想がいいという感じではないものの、料理を通じて信頼関係が築けていると思う。
「それは何かを煮ているんですか?」
「ああっ、熟成させるだけじゃなくて、煮こんだタレを作れないかと思っている。まだ試作中だがな」
ハーブとスパイスが混ざり合った複雑な香りが漂っていた。
俺には分からない組み合わせで、ジェイクなりのタレを作っているのだろう。
これから、王都のことや近況について話そうと思ったところで、アデルたちの方が騒がしくなった。
「ちょっと見てきます。積もる話は後ほど」
「ああっ、了解した」
ジェイクは厨房の外の様子に動じることなく、落ちついた様子で言った。
俺は店の中からテーブルの設置してある屋外に歩き出した。
「……もしや、エステルが何かしたのか」
すぐに外に出たところで、アデルとエステルが向かい合っていた。
「……エス、どうしてこんなところに」
「姉さんが音沙汰がないから、わたしが代表して様子を見にきたんだよ」
状況がいまいち分からないものの、エステルのたずね人がアデルであることが判明した。
二人の間のシリアスな空気を感じて、この場にいる誰もが口を閉ざしていた。
「あ、ああっ、そういえば見合いの話が届いていたわね」
「わざとらしいって。どうせ、こっちからの通信を無視してたんでしょ。昔から姉さんは都合が悪くなるとそうだよね」
「う、うん、エステルの言い分は聞くから、ここで通信のことは話さない方がいいんじゃないかな……」
「あっ、そうだった」
エステルは口外してはいけないことを漏らしてしまったように口元を手で覆った。
おそらく、通信というのは何か特殊な通信手段があるのだろう。
アデルとエステルは気まずい状況のまま、お互いに黙りこんでしまった。
口を挟みづらいところだが、この店の店主として仲介に入ろう。
「エステルのお姉さんというのはアデルだったんですね」
「……うん、そう」
「見合いの話を無視されて、家族を代表して確かめにやってきたと」
「……家族というか、エルフの村でわたしが適任になって、それで来たの」
やや感情的だったエステルだが、徐々に落ちつきを取り戻していた。
「エステル、私の話を聞いてちょうだい」
「うん、何?」
「あなたに返事ができなかったのは、私に葛藤があったからなのよ」
「それで? 話を続けて」
エステルは冷静になっただけなのだが、妙に迫力を感じさせた。
さすがはアデルの妹というだけのことはあり、姉のアデルをたじろがせているのはすごいことだった。
「……実は私、エルフなのに人間のことを好きになってしまったの」
「えっ!? どういうこと」
「それはね、この人なの――」
アデルはこちらにつかつかと歩み寄り、俺の隣に立った。
それが何を意味するか、思考が追いつかなかった。
「……そう、相手がマルクなら仕方ないね」
「う、うん、そうよ」
俺はアデルの言葉に困惑しており、少し離れたところにいるハンクとエスカの表情にも、明らかに戸惑いの色が浮かんでいた。
「分かった……と言いたいところだけど、遠くまで来て何もせずに帰るのはイヤだから、わたしとマルクで魔法で勝負しよう」
「……は、はい?」
自分でも呆れるほどに間抜けな声が出ていた。
普通に考えて、エステルと勝負して勝てるはずがない。
そんなことは本人も分かるだろうと思うが、エステルの表情から迫力を感じた。
「……あのー、エステルさん? 落ちついて話し合おう」
「大丈夫、納得したら帰るから」
エステルの怒りが俺とアデルのどちらに向けられているかは定かではないが、少なくとも言葉で止められるようには見えなかった。
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