異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ～定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ～

王都に到着

　出航の時間が近づくと、乗客に向けた案内が呼びかけられた。

　俺たちは王都近くの港へ向かう便に乗船した。

　定期船が出航すると海は穏やかだった。

　船酔いが心配だったので、ホッと胸を撫でおろした。

　コルヌからレアレス島に向かう航路よりも距離は短く、思っていたよりも短い時間で目的地の港に到着した。　

　今度の港はレアレス島のものように活気あふれるような感じではなかった。

　漁港として使われている様子はなく、交通の便として使われているだけのようだ。

　簡素な構造で必要最低限の役割といったところか。

「ここから王都までは近いんですか？」

「わしもこのルートで向かうのは初めてだが、目と鼻の先のはずだぞ」

「なるほど、だいぶ近いですね」

　船を下りた後、桟橋を歩きながらブルームと話した。

　いよいよ、王都が間近に迫っているようだ。

「さあ、行こうか」

「はい」　

　定期船が停まった港を離れると、幅の広い街道が目に入った。

　王都の近くともなると、バラムのような辺境よりも発展している。

　通行人の量も多く、ランス王国の中心が近いことを実感させた。

「遠方から来ると、人の多さに驚くでしょう。私も初めはそうでした」

「そういえば、リリアも王都以外の出身でしたね」　

「ええ、そうです。市街地に入ると、また驚かされると思います」

　俺はリリアと話しながら、街道を歩き始めた。

「リリアは剣技をどこで覚えたんですか？」

「故郷に剣の師匠がいて、その方から」

「それはいいなあ。俺はほとんど自己流だから、教えてもらえるなんてうらやましい」

　俺の言葉に、リリアは複雑な表情で笑みを浮かべた。

　すぐにその表情が意味するところを理解できなかった。

「剣を握るようになったのは小さな理由でしたが、師の教えは厳しかったです。おかげで少しは強くなれた気はしますが」

「そりゃ、楽に強くなれるわけないか。修業が大変だったんですね」

「ええ、辛いことも多かったです」

　リリアは何かを懐かしむように、遠くを見るような目をしていた。

　その横顔は可憐で、目を奪われるような美しさだった。

「それがどうして、ブルームの護衛に？」

「王都を訪れた時に紹介されて、ブルーム様専属ではなく、城の警護と護衛を任せて頂くようになりました」

「なるほど、城の警護をしたり、他の人を護衛したりするんですね」

「ええ、そうです」

　リリアは彼女自身の役割に誇りを持っているようで、凛々しい表情を見せた。

　要人の護衛は誰にでもできるわけではなく、彼女は立派だと思った。　

「王都は目前だが、初めて訪れるマルクに見せたいものがある」

「へえ、何ですか？」

「こっちについてきてくれ。何を見るかはそれまでのお楽しみだ」

「いいですね。一体、何があるんだろう」

　少し前を歩いていたブルームがどこかへ案内を始めた。

　彼は街道から脇に伸びた道へと進んでいった。

　ブルームについて歩いていくと、しばらく上り坂が続いた。

　やがて、平坦な道になったところで、この場所が丘の上なのだと気づいた。

「――ああっ、これはすごい」

「ここから、王都の城と市街地が全て見渡せる」

　眼下の少し先には大きな街が広がり、さらにその奥には立派な城が見える。

　日本ならばいざ知らず。この世界では初めて見る規模の都市だった。

「これを見せたかったんですね」

「街の地図を貸すこともできるが、全体像を目で見ておいた方がいいと思ってな」

「ありがとうございます。いい景色です」

　俺は王都周辺の壮大な景色に胸を打たれた。

　しばらくの間、その余韻に浸った後、ブルームに声をかけた。

「存分に堪能しました。そろそろ、王都に向かいましょう」

「ふむ、マルクが満足したならよいだろう」

　俺たちは丘の上を離れて、王都に向かって歩き出した。

　街道に戻って三人で進んでいくと、王都を囲む城壁が近づいてきた。

　俺の記憶が合っているのなら、大昔に戦乱が続いた時代の遺産だったと思う。

　今の時代に他国からの侵攻を警戒することはないので、高い壁で城を守る必要はないはずだ。

「ついに王都に着きますね」

「出入り口に衛兵はいるが、気にせず通ればいい」

「分かりました。検問とかもないんですか？」

「明らかに不審な人物であるか、あるいは大量の武器でも持ちこもうとしない限りは止められないだろうな」

「なるほど、出入りが楽なのはいい」

　ブルームと話していると、王都の門が目の前に見えてきた。

　鎧を着こんだ衛兵が二人いて、門番のように立っている。

　彼らは周囲に目を配っており、何かあれば対応できるようにしているようだ。

　ブルームは普段と変わらない調子で、前に進んでいった。

　俺は彼に続いて歩いていく。

「わしだ。戻ったぞ」

「「おかえりなさいませ、ブルーム様」」

　二人の衛兵は丁寧に頭を下げた。

「留守中に変わったことはあったか？」

「いえ、特にはございません」

「そうか、それはよかった」

　衛兵たちの前を離れて、前方に見える市街地の方へと進む。

　門を越えて城壁を通過すると、目の前の視界が開けた。

「これはすごい！　人通りも多いし、色んな建物がある」

　城壁の内側はまさに都市という雰囲気だった。

　こちらが気後（おく）れしてしまいそうなほど、見事に発展している。

　通りを歩く人の数は多く、様々な種類の店が軒を連ねていた。

「まずは大臣へ挨拶に行こう。城まで案内する」

「はい、分かりました」

　ブルームは先を歩き始めた。

　これから、城へ連れていってくれるようだ。

　彼に遅れないように歩き出すが、周りの光景に意識が向いてしまう。

　俺はバラムで生まれ育ったので、「世界の中心」はあの町だった。

　そんなバラムよりもはるかに栄えている場所はとても刺激的に感じられた。