漁業の再開

 俺とリリアは領主と三人で、レアレス島の港がある方へ移動した。

 まずはブルームやランパードと合流しなければならない。


 定期船が停まった辺りまで向かうと、ブルームとランパードが路地に置かれた椅子に腰かけていた。

 こちらの様子に気づいたランパードが勢いよく立ち上がった。


「おおっ、領主様!」


「すまんな、ランパード。おらのことで心配かけてまったな」


 二人はまるで親子のように再会を喜んでいた。


「おらは島の悪魔に操られて、漁業禁止令なんてものを出しちまった。そんなものはすぐに解除せねば。ランパード、島の漁師たちに漁に出ていいと伝えてくれるか?」


「そりゃあ、もちろん! すぐに行きます」


 ランパードは足早にこの場を離れた。


「お初にお目にかかる。わしは王都の城勤めのブルームと申す」


「あんたさんがブルームさんか。さっき、リリアさんから聞いたけれども、王都から魔法使いを派遣してほしい」


「んっ? 魔法使いが何か」


 領主が話を急ぎすぎていたので、リリアがブルームに経緯を説明した。


「――ほう、そんなことが。たしかに彼女の言うように、王都を探せば高位の魔法使いを連れてくることは可能だろう。そのジャレスという悪魔は捨て置けぬようだから、わしも協力させてもらおう」


「本当に助かります。おらたちには何ともできねえこって」


 領主は深々とブルームに頭を下げた。


「頭を上げてくだされ。困っている国民がいれば力になるようにと、国王や大臣がお話しになられていた。それを守っているだけのこと」


「それに、レアレス島の魚介類が食べられなくなるのも困りますものね」


「ははっ、リリアの言う通りだ」


 レアレス島で漁業禁止令の話になってから、何となく重たい空気を感じていたが、明るい雰囲気が戻ってきた気がした。    


「本当に皆さんには感謝してます。そのうち、ランパードや他の漁師たちが海に出るので、お礼に魚料理を食べていってくだせえ」


「おおっ、それはありがたい」


「それが目当てだったわけではないのですが、ご厚意をお断りするのも気が引けます」


「リリアは魚が好きなんだから、遠慮しなくてもいいんじゃないですか」


 領主の話は渡りに船なのだが、リリアは慎み深い性格のようだ。

 人助けをした時、何も受け取らないと相手を不安にさせることもあるので、ここは招待を受けていいだろう。


「手持ち無沙汰で待たせてしまうのは申し訳ねえですから、近くのカフェでお待ちください。今から案内しますんで」


 領主はどこかに向かって歩き出した。

 俺たち互いの顔を見合わせた後、先を行く領主に続いた。


 定期船が停泊する場所から少し移動すると、脇道に入ったところにカフェがあった。

 落ちついた場所にあり、素朴な外観だった。


「わぁ、素敵な雰囲気ですね」


「ここは島に移住した夫婦がやってますんで」 


 領主はリリアに説明した後、店の扉を開いた。


「こんちは。この人たちの支払いは後でおらに請求してくれるか」


「はい、かしこまりました」


 店の中に入ると、この店の主人と思われる男と領主が話していた。


「カフェ・ルトロンへようこそ。今は空いている時間なので、お好きな席にどうぞ」

 

 俺とブルーム、リリアが店に入って立ち止まっていると、女の店員が出てきた。

 領主が夫婦でやっている店だと話していたので、彼女が妻だと思った。


 俺たちは店の奥のテーブル席に向かい、それぞれ椅子に腰かけた。


「昼食の時間は終わってしまって、今は飲みものだけになってしまいます」


 女の店員はメニュー表をテーブルに置くと、大まかな説明をした。


「少し空腹ですけど、この後のために我慢します」


「わしも空腹だが、問題ない」


「そうですね。ここは耐え時です」


「あの……、皆さんは昼食がまだでしたか?」


「ええ、まあ。ちょっと立てこんでいたので」


 女の店員は俺たちを気遣うような様子だった。


「そうでしたか。軽食程度でよろしければ出せますよ」


「それはありがたい。マルク、リリアよ、それで構わんな」


「ええ、どうぞ」


「私も問題ありません」 


 ブルームの反応がよかった。

 想像以上に空腹だったみたいだ。


「少々お待ちくださいね。飲みもののご注文は後ほど」


 女の店員は調理場の方に入っていった。

 

「後で魚が食べられるなら、ほどほどにした方がいいですね」


「そうだな。ここで満腹になっては本末転倒だ」


 それから、俺たちはカフェで簡単な食事をして、飲みものを飲んですごした後、領主に呼びかけられて港の方に向かった。




 しばらくして港に戻ると、先ほどまでにはなかったような活気があった。

 何隻かの漁船から魚が入った木箱が下ろされて、陸に水揚げされている。

 比較的短い時間で漁に出たみたいなので、近海が漁場なのだろう。


 俺たちがその様子を眺めていると、一隻の船からランパードがやってきた。


「ホントにありがとう! おれたちは漁業がないとダメだ。漁師仲間も元気になった!」


「いえいえ、当然のことをしたまでです」


「マルクとリリアは見事な活躍だったな」


「ほとんど、リリアの活躍でしたよ」


「おぬしも危険を顧みずに追跡したならば、それだけで十分ではないか」


 ブルームは俺の働きを評価してくれているようだ。

 彼の気遣いが理解できると、少し照れくさい気持ちだった。

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