第4話「黒の勇者」

 数時間後、森の奥の洞窟で、黒い装甲で、騎士を思わせる甲冑を纏った者、

すなわち「黒の勇者」が短めの双剣を手に魔獣退治をしていた。

敵はゴブリンの群れ。狭い洞窟内での戦闘故に、短めの剣である。


「うおおお!」


勇ましく雄叫びを上げながら、次々と敵を切り裂く。

その戦闘ぶりは、まさしく圧巻だった。彼は長身で、

鎧の形状から鍛えられた肉体を持ってそう。

頭を完全に覆う兜のせいで、顔はわからないが、

その全身を覆う黒光りする重厚感ある甲冑、

それでいて、軽装甲のごとくの素早さをもつ。

ゴブリンは、低級魔獣であるが、群れで来られると、一人で対応するのは難しい。

しかし、彼はたった一人で、双剣をふるい、次々に斬り伏せていく。

そして最後の一匹となったところで、


「はぁっ!!」


と声を張り上げ、上段からの一撃により、ゴブリンは真っ二つに斬れた。


「ふう……」


息を整える。


 しかしまだ終わりではない。今日の依頼は二種類の魔獣の群れの殲滅なのだ。

洞窟を出て、休む間もなく次の現場に向かう。その道中で、巨大な岩が飛んでくる。


「!」


軽々と避ける。


「来たか……オーク……」


先ほどまでいた場所には、大きなクレーターが出来ていた。

そして、視界にオークの巨体を捉える。

次の仕事は、この近隣のオークの殲滅だ。そう巣に近づいたことで

敵が攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 黒の勇者は、双剣を手放した。手から離れた剣は消えてしまう。

そして左肩に右手を持ってくると、その手に大剣が出現した。

まるで大剣を左肩に装着していて、それを抜くかのような動作の後、

構えた大剣は、刃は、鎖についた小さな刃が

刀身の周りを回転していて、切れ味を生み出しているようだった。

それを手に、駆け出し、飛び上がり、


「ふん!」


落下しながら、大剣を振るう。

すると、近くにいた巨体のオークは真っ二つになった。


 まだ終わりじゃない。周りには、まだオークがいる。


「ふっ! はぁ!」


大剣を振りかざすたびに、次々と魔獣を屠っていく。

オークは、大柄の人型魔獣。筋肉隆々で

防御力、もちろん腕力も強いが、武器として棍棒や、

さっきのような大きな岩を投げてくることもある。


(オークの頭は異世界のブタと言う動物に似てるらしいな)


加えて、このオークたちは、群れで行動する習性があり、

ただでさえ強い魔獣が大人数でやってくる。

同じ群れでもゴブリンとは大違い。上級の冒険者でも単体で挑むのは容易ではない。


 しかし、「勇者」と呼ばれるだけあり、しかも巨大な剣にも関わらず、

軽々と振り回す、その剣さばき、さら重装備にもかかわらず軽装のような素早さで、

敵の攻撃をかわしつつ、次々とオークを切り裂き、倒していく。

その戦いぶりはまさに圧巻だった。


 やがて、


「はぁ!」


という掛け声とともに、オークの脳天に大剣を叩きつけ、絶命させる。


「ふぅ……」


息を整え、周りを見渡す。周りは、魔獣の屍しかない。


「これで最後か……」


 そんな彼に、近づくものがいた。それはアベルだった。

彼は、オーク退治のあたりから黒の勇者の様子を見ていた。

魔獣退治が終わるのを見計らって、声を掛けようとしたが、


「グォォォォォォン!」


という咆哮が聞こえ、ワイバーンが飛んできた。

突然の事に、アベルをとっさに身を隠す。


 一方、黒の勇者は、この状況に、動じることなく、

武器を構える。予定外の魔獣との遭遇は珍しくはあるが、ない事ではない。


 だが、突如、魔獣の頭部が吹き飛んだ。


「!」


そして魔獣の背後から、吹き飛ばしたと思われる人物が姿を見せた。


「ごめんなさい。邪魔したわね」


白い装甲で厳つさを感じるデザインで、

がっちりとしつつも女性的な体格の鎧を着たものがいた。

背丈は勇者と同じくらい。


「白の魔王……」

「ワイバーンの群れの討伐してたんだけど、

一匹、取り逃がして、ここまで追って来たの」


と言いつつ、


「迷惑かけたわね」


と再度詫びる。


「いや、もう仕事は終わったから問題はない」

「そう……なら良かった……」


直後、物音がして、


「「誰だ!」」


物陰から、アベルが姿を見せる。


「「アベル……」」


二人が言うと、アベルは封筒のような様なものを投げつけて、

次の瞬間、姿を消した。


「転移か……」


 そして、残された二人、サーチを使い、

封筒がただの手紙だと確認し、中身を読む。内容は、


「ライトを預かった。詳しくはあとで連絡する。誰にも言うな。

もし誰かに言えば、ライトの命はない」


横から内容を見ていた白の魔王は


「これって誘拐……」


だが黒の勇者は、冷静な口調で


「ハッタリだ。ライトの無事は確認している。問題はない」


妙に自信たっぷりなので、


「ならいいけど……」


黒の勇者は、口元を抑えながら、


「だが、この後は分からない……」

「大丈夫なの?」

「心配はいらない」


そう言うと、


「戻る……」


そう言って、黒の勇者は、去っていき、残された白の魔王も、その場を後にした。




 転移で逃げたアベルは、現場からだいぶ離れた場所に姿を見せた。


「何かあったんですか?」


リサも、アベルと一緒に転移してきた。

実は、彼女も現場の近く、アベルとは離れた場所にいた。

そして、アベルは転移にマジックアイテムを使ったのだが、

これは、本人だけでなく、指定した仲間も一緒に転移するもので、

指定していたのがリサだったので、一緒に転移したのだが、


「くそ、とんだ損害だ」


使い捨ての高額なアイテムで、本来は緊急脱出用だった。


 そして、リサは再度、


「何があったんですか?」


と尋ねた。


「それがな……」


ここまで起きたことを話した。

リサは、驚いた顔で


「まさか、白の魔王までいたとは、手紙を書いておいて正解でしたね」

「そうだな……」


とどこか不機嫌そうにアベルは言った。


 アベル達の計画は、ライトが断って、拉致に切り替えたところから、

話は、大きく変わっていき。最初は、ライトと黒の勇者を

離して、黒の勇者を困らせようという方針だったのが、

その内、誰が言いだしたかは不明だがライトを人質にして、

黒の勇者を、利用するに変わっていた。


 そしてアベルは自分の口で、ライトを拉致したことを伝えるつもりだった。

もちろん、相手は凄腕の冒険者であるから、

リサが、もしもの事態を考えて、手紙は用意していた。


「しかし、ダリルとロアナの奴、上手くやってるかな」


マジックアイテムで連絡を取ろうとするが、


「通信妨害の結界の効果が、続いていますから、無理ですよ」

「そうだったな」


恥ずかしそうにするアベル。


 ダリルからの連絡で、ライトの拉致がうまく行っていないと聞いて、

だからと言って、日を改めるという考えもなく、

ハッタリをかますことにした。

そして連絡をつけられたらまずいので、この結界を張っていた。

もちろんダリルからの連絡の後である。


 しかし、ハッタリをかますことも、そうだが

そもそも、拉致したことを直接伝えに行くという行為は、

かなりのリスクであるが、なぜそれをしたかと言うと、

はっきり言えば、アベルが優越感を得るためである。


 猛々しい盗人の様に、踏み外した人間に、

時折みられる気の大きさと言うべきものである。

まあ、アベルとそれに協力している仲間たちの元々の気質なのかもしれない。


 その後、アベル達が結界の範囲外に出て、連絡は取れるようになったが

ライトは未だ、家に帰ってこなくて、ライトの拉致に成功するのは、

アベルたちが、街に帰って、しばらく経ってからで、

彼らが家の周辺で、見張っていて、丁度帰ってきたところを襲ったのだった。


「うぐっ!」


捕まえたのはアベルである。


「おとなしくしろよライト」


その後、魔法で、気絶させ、大きな袋の詰めで、

他の仲間たちと一緒に、事前に用意していた隠れ家に連れていった。




 僕が目を覚ますと、椅子に縛られていた。

部屋には窓はなく、ランタンの光はあるけど、薄暗かった。


「よう、目が覚めたか」

「アベルさん……」


周りを見渡すと、他の皆もいた。


「何で、こんな事を……」

「文句があるなら、お前の主人に言うんだな。

新参者の癖に、俺たちよりも先にAランクになるからだ」

「嫉妬ですか……」

「うるせぇ!」


僕は、思いっきり殴られた。


「ホント、目障りなんだよ『黒の勇者』は。

まあお前を使って、利用させてもらうからな

他の奴らと違って、奴はずいぶんお前を重宝してるみたいだからな」

「利用?」

「そうだな、奴に依頼をやらせて、俺らの功績にするとかな、

そしてランクを上げる。まあ、お前には関係ない事だな」。


 僕は、この時、アベルさんが哀れに思えてきた。


「そんな事をしなくても、貴方たちはAランクになれますよ

僕の後釜さえいれば」


僕を追い出さねばと言いたかったが、それを言ったらいけない気がして、

後釜とだけ言った。


「全く、こんな事して、真面目に頑張る気はないんですか」

「うるせぇよ!」


またぶん殴られた。


「全く、お前もムカつく野郎だ。追放してよかったぜ」


と言った後、


「ああ、もう、見てるだけでイライラする。ダリル、見張っておけよ」


そう言うと、ダリルさんを置いて、他の二人を連れて出て行った。


 そしてダリルさんは、バカにしたように笑いながら


「お前もツイてないよな。

せっかくAランク冒険者の従者になったのにな」

「………」

「そうそう、この部屋は通信魔法や、スキルで外との連絡は取れないし

転移避けもしてるからな、お前の主人も助けに来れないと思うぞ」


僕は、ダリルさんの言葉を無視して黙ったまま、時を待つことにした。

そして、椅子に座って見張っていたダリルさんは、


「ふぁ~~~~」


とあくびした後、居眠りを始めた。








 さて、ライトを捕まえたところで、

見張りをしているダリルを除いた三人で

アベルたちは今後の方針を考えていたのだが、

突如、ライトを閉じ込めている部屋から、物凄い音が聞こえた。


「「「!」」」


それは、明らかに爆発音であった。


「なんだ!」


アベル達は大慌てで、部屋に向かった。


 部屋に着くと、部屋に大きな穴が開いていて、


「あ……ああ……」


と声をあげながら、ダリルは床に座り込んでいる。

そして、部屋にはもう一人。


「黒の勇者!」


状況から、部屋に大きな穴を開けて、入ってきたようだった。


 そして黒の勇者は


「ライトは返してもらった……」


そう言うとあけた穴から出ていこうとする。


「待て、コラ!」


声をあげながら、腰に身に着けていた剣を抜いて襲い掛かった。

だが、黒の勇者は、振りむき、剣を右手で受け止め、そのまま押し返した。


「うわっ!」


押し返されバランスを崩し、仰向けに倒れる。


 リサとロアナも、杖を構えたが、


「「………!」」


黒の勇者からの気迫に負けて、何も出来なかった。

そして、黒の勇者は去っていこうとするが、アベルは、どうにか上半身を起こし、


「どうして、あんな奴を助ける。あんな役立たずを」


黒の勇者は、返事をしない。


「どうせ、お前も、ライトを捨てるんだろ」


とアベルが言うと、


「俺は、ライトを絶対に捨てない……捨てられない……」


そう言うと黒の勇者は去っていった。

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