勇者の従者ですが実は……

岡島

読み切り(1)「黒の勇者」

第1話「勇者の従者に成りました」

「ライト、お前はクビだ」


 僕の名は、ライト・アシュクロフト、

自分で言うのもなんだけど、大して目立たない人間。

ある日、冒険者パーティーから、またしてもクビを言い渡された。


「僕は、きちんと仕事しましたよ。食事に、洗濯、武器の手入れに、

宿の手配……」

「でも戦闘じゃ役立たずじゃねえか」

「だって、僕は戦闘要員じゃないでしょ」


僕は生活サポート専門の冒険者だ。

荷物持ちや、雑用、炊事、水くみなどをこなす。


「確かにお前の仕事は悪くない。だからって、それだけじゃ困るんだよ」


リーダーである戦士が僕を睨む。

この人は、戦士のアベルさん、パーティーでは一番強い人だ。


「そうよ! あんたが居ると足手まといになるのよ!」


魔法使いのリサさんが叫ぶ。

彼女はパーティーで一番魔法に長けている。


「私はあなたのような人が嫌いです。一緒に仕事をしたくないのです」


同じく魔法使いのロアナさんが静かに告げる。

彼女だけはいつも優しい目で見てくれていたのに、


「お前みたいな奴がいるせいで俺達はランクが上がらないんだぞ」


斥候のダリルさんが怒っている。

彼は、ナイフを使った素早い戦闘を得意として、調査力が一番高い。


「もういい、出て行け! 二度と俺たちの前にあらわれるな!」


僕は


「わかりました」


と言って、彼らのもとを去った。


 僕は思わず、

 

「まただ……」


追放は初めてじゃない。これまでも生活サポート要員で、パーティーに入ったのに、

戦闘を求められ、結局、役立たずとして追い出される。

これから先も同じことの繰り返しの様な気がした。


 僕の様な生活サポート要員の冒険者が、一人じゃやっていけなくて、

どこかのパーティーに入らないと、いけないけど、

中々次の仕事が決まらなかった。


 この状況下で、持ち金が減ってきた僕は、右手を見る。

そこには綺麗な装飾の手甲があった。

これは一種のマジックアイテムだが、これを使う事は僕のプライドを捨てる事。

僕にとっては悪魔の契約に等しい。


(こいつの所為で、僕は冒険者としての道は、断たれた。

でも今は背に腹は代えられないか)


僕は意を決した。冒険者へのあこがれを捨てられなかったからだ。


 それから間もなくして、僕は決して追放する事のない冒険者、

後に「黒の勇者」という異名を持つ凄腕冒険者の従者となった。


 時は流れ、黒の勇者は、街では有名人になっていて、従者である僕も街じゃ、

それなりに知られるようになっていて、


「ライト君、こんにちは」

「今日も元気だね。ライト君」

「よう、ライト、調子はどうだ」


と待ちゆく人々が、時折、僕に声をかけてくるほどだった。

ただし、必ず、


「黒の勇者様のご様子は」


と聞かれる。あくまでも主体は、黒の勇者で僕はおまけ扱いだ。

でも、それでいいと思っている。

形はどうあれ、冒険者に係われるのだから。


 そんなある日、ちょうど、黒の勇者の仕事を探しに来た時、

アベルさんが、二度と現れるなと言っていたのに、

冒険者ギルドで話しかけてきた。僕は内心驚いたけど平静を装った。


「あら、アベルさんお久しぶりですね。二度と会いたくないんじゃないですか」

「そんな事より、お前、あの新参者のところ働いているらしいな」


新参者と言うのは、黒の勇者の事、凄腕ではあるが、新人である。


「アイツ、新人の癖に、短い間にAランクになっただろ」


 冒険者にはランクがあって、国によって異なるんだけど、

この国では、アルファベットと言う異世界の文字で、あらわされていて、

Sが一番上で、次にABCDと言う文字が続く。ちなみに僕はDランク。

そしてAランクになると、貴族や王族から直接依頼が来るほどになると言う。

アベルさんが言っているように「黒の勇者」は、Aランクの冒険者でもある。


「一体、どんな手でAランクになったんだ」

「そりゃ、人がやりたがらない仕事をしてるから」

「ホントにそれだけか?」


と疑いのまなざしを向けてくる。

ズルをしてるんじゃないかと言わんばかりだった


 人がやりたがらない仕事には二つある。一つは、大変な割には、報酬が低い仕事、

たとえば依頼自体は、簡単だけど、場所が僻地で行くのが大変だったり、

近くに上級魔獣の生息域があって、乱入される危険があるなど、依頼外の、

報酬やランクアップに無関係なところで苦労が生じそうな場合が相当する。


 もう一つは、極端に難しい仕事。例えば上級魔獣の群れの殲滅など、

成功すれば、高報酬な上、あっという間に、ランクアップだが、

もちろん成功率は極端に低いから、高ランクの冒険者でもやりたがらない。


 黒の勇者は、こういう依頼を積極的に行っているから、報酬の低い依頼は、

ともかく、極端に難しい仕事をこなしていれば、直ぐにAランクになるわけで。

だから、ズルなんてしていない。


(いや、ズルと言えばズルだな……)


そんな事を思いつつも、


「ところで、アベルさんは、まだBランクなんですか?」

「………」


僕がいなくなっても、アベルさん達は、

これまで通りの活躍をしていたみたいだけど、

ランクアップをしたという話は聞いていなかった。

要は、良く悪くもなにも変わらないのだ。


「お前に心配される筋合いはない!」

「別に心配なんてしてませんよ」

「ふん!これでお前が居たら俺たちは、益々、ランクは上がらないだろうよ」


ここで、


「彼を切り捨てるから、貴方たちは、ランクが上がらないんですよ」


馴染みのギルド職員の女性、エイラさんが声をかけてきた。

彼女は、ウェイブのかかったポニーテールの髪型で、

凛とした顔立ちの美人で眼鏡をつけている。

気が強くて、少し強面の所がある。


「なんだと、てめえ」


と凄むが、動じる事はなく。


「貴方たちは、Aランクに成れるだけの強さがあります。

でも強いだけじゃダメなんですよ。

このままではランクアップは、夢のまた夢ですよ」

「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「さっきも言ったでしょ、ライト君を切り捨てなければよかったんです」


すると、アベルさんは、嘲るような顔で


「はぁ~、何言ってるんだよ!

こんな役立たずがいたら、余計にランクアップができねぇじゃねえか」


すると、エイラさんは額に手を当てながら


「彼は役立たずじゃないでしょう。

生活サポート面では、高い腕前を持っていると聞きましたよ」


するとアベルさんは人を馬鹿にしたような言い方で、


「どんなに作る飯がうまくても、戦えなきゃ意味ねえんだよ!」


声を上げるが、エイラさんは、動じることなく、


「その考えを改めぬ以上、貴方たちは万年Bランクですよ」

「てめぇ……」


アベルさんは、殴り掛かりそうで


「ちょっとアベルさん!」


僕は、止めようとしたが、

その前にエイラさんに一睨みされたアベルさんは、

急におびえたような、そぶりを見せた。

それだけ、エイラさんの気迫が強いものだった。


 そしてアベルさんは、負け惜しむように、


「もういい、絶対にAランクになってやる!」


と言って、その場から立ち去って行った。


「全く、『絶対的な壁』にぶつかってる万年Bランクの典型ですね」


DからB、AからSは、順調に依頼をこなしていれば、簡単に上れるけど、

BからAは、上がれる人間が、極端に少ない。ほとんどの冒険者がB止まりだ。

これがエイラさんの言う『絶対的な壁』


 エイラさんは、メガネを直しながら、


「強いだけじゃダメだと言うのに、

何で生活サポートの重要性が分からないんでしょうか」


と悲しそうな顔で言うエイラさん。


 同等の実力の冒険者達でも、Aに行けるのは一握り。

そこを振り分けるものは、それは生活サポート、すなわち家事だ。

Aランク以上の冒険者は、家事ができる。あるいは周辺に家事が上手い人、

僕のような生活サポート専門の冒険者がいる。

普段の食事や、衛生環境が、高難度の依頼をこなす強さを支えになるんだ。


 家事の重要性は、冒険者ギルドも知っていて、啓発もしていて、

僕が、生活サポート専門の冒険者をやっているのも、

まともに戦えない僕でも、冒険者としてやっていけると

啓発を通して、知ったからである。


 でも現状は、家事を重要視せず、僕のような冒険者を、

無下に扱う人々が多い。


「やっぱり困った見本がいるせいですかね」


エイラさんが、何処か自虐的に言う。

彼女の言う困った見本と言うのが、Aランクと言うか、

Sランクにいる天才的な、それこそ規格外な、冒険者たちの事。

この人たちは、生まれながらの天才で、

生活サポートを必要とせず、その腕っぷしで

高ランクとなっている。


 そのすごさから、多くの冒険者達の見本となっているけど、

先も述べた通り、それは天性の才能で有り、

僕ら凡人には真似できないことで、

そもそも見本にしちゃいけない。


 そして、エイラさんは


「黒の勇者様も、貴方のような人がいるから、

Aランクに成れたんでしょうね」


その一言に、僕は気まずい気分になって


「あの人も、規格外ですから、どちらかと言えば、

困った見本だと思いますけどね」


と僕は答えるが、


「でも、まあ陰口ではありますが

貴方がいないと生活が成り立ってないと聞きますし

私にも、貴方の存在が大きいと思いますよ」

「そうですかね……」


と僕は答えつつ、仕事を見つけた後、ギルドを去った。

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