第2話 丸誠商店

 丸誠商店。昔からO町では知らない人がいないぐらい認知されていた、地元に密着したミニスーパーのような店だった。

O町は山と海に挟まれたとても自然豊かな、一人一人がどこの誰かを知ってるような小さな港町だ。そこで長年、フミとフミの夫、誠助は、"丸誠商店" の看板を掲げ商売をしていた。その当時、酒類販売は地域範囲が決められている免許制で、この町ではこの丸誠商店のみ酒類を取り扱うことができたため、酒販売で繁盛していた。その為、ゴールデンウィークやお盆、年末年始と、特に酒の需要が多い時期は事前に仕入れを増やし、在庫で持っておく必要があったため、一時的に借入をすることもあったが、売り切れば何も問題なく利益になっていた。

 変化が表れたのは平成になってからだ。市町村合併が全国的に盛んに行われ、その波はこの地へもやって来て、現実となった。I市を取り巻く三つの郡がI市に合併されることが決まった。すると、小さな町は、市に吸収される前に予算を使い果たそうと、新たに公民館やスポーツ施設、ふれあいセンター等、いわゆる箱物を次々建設した。

 山と海に挟まれたO町は、市街地へ出るには山をひとつ越えねばならなかった。山道は細く長く、対向車でも来たものなら、道を踏み外して崖から落ちぬよう細心の注意をはらいながら、曲がりくねった山道を車で越えるのに一時間程かかっていた。

 そこでO町は、町の予算をトンネル建設に注ぎ込んだ。町にとっては画期的な出来事だった。トンネルが完成すると、山を越えるだけで一時間程かかっていたのが、市街地まで三十分程で着くようになった。町は外部から人がやって来ることを多いに期待した。

 しかし、現実はそう上手くはいかなかった。町民は車さえあれば市街地の大きなショッピングセンターで買い物ができる。地元の商店街はどんどん賑わいを無くしていった。同時に若い人の流出も止められなくなり、O町は一気に過疎化へ進んでいった。


 時代の変化と "ある事情" が重なって、丸誠商店は没落したのである。


「八十八か。高齢ですね。心不全とかでしょうか?」

町の警察署で若い刑事が中年の刑事に問いかけた。

「さぁ、こんな田舎だからな。そんなとこだろうが、一応変死ってことで司法解剖だろうな」


 誠一が現在住んでいるのは、O町からトンネルを抜けてすぐのK町である。朝、志津が声をかけてもフミが起きてこないと言うので、誠一がフミを呼びに行くと、フミは昨夜のままの状態でコタツで横になっていた。すると、夜の暗闇では気付かなかった様子が目に写った。

「おい!母さん!おい!」

誠一は急いで側に駆け付け、必死でフミの体を揺すったが、変わり果てた母親の姿を確認するだけだった。

「何でだ....」



 緑は電話口で泣いていた。

「昨日会ったばかりなのよ。タエちゃん。今日誠一兄ちゃんの家に行ってきたけど、母さんには解剖されるって会えなかった。タエちゃん、何でこんなことになったんだろう。昨日コタツで寝たままだったんだって。帰る時、もっとしっかり見ておくんだった...」

「でも最後に子供達皆と会えたんだね、母さん。それだけでも良かったよ」

「うん。タエちゃん。ありがとうね。本当に今までお世話になって、ありがとうね」



「マジっすか!?矢野さん、青酸カリって!」

若い刑事が大声を上げた。

「大きな声を出すな、桜井!これから殺人と自殺の両面からの捜査になるだろうが、こんな田舎でどっからそんな薬が...とりあえず、俺達は捜査しなきゃな」

中年の刑事がそう言うと、若い刑事が答えた。

「そりゃこんな田舎で刑事の人手がないっすもんね。」


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