第9話 冒険者
「私は冒険者。名前をハク・リンゴマルク」
「ハク、と呼ばせて貰っていいのかな? 俺は茂上ケイ、まぁ野良の魔術師って所だ」
「冒険者じゃないんだ? だったらもっと都合がいいわね。ハクでいいわ、貴方は多分上下名の人かな? だったらケイと呼ばせて貰う」
そう言って、エルフの彼女は俺に笑いかける。
その時、ピクリと動いた耳が印象的で、幻想的に見えた。
上下名ってなんだろう?
左右名の逆的な?
あぁ、文字列の話か。
上下の文字様式を使う場合は、下が名前。
左右の文字様式を使う場合は、左が名前。
そんなところだろう。
そして、彼女が名乗った職業。
冒険者。
未来には無かった職種だ。
メノウに少し話は聞いた。
端的に言えば、世界地図を作製する事を目的とした職業。
この世界は、まだ魔獣が自然界を占拠している。
それを突破し、人類未踏の世界を探索する。
それが冒険者。
しかし、一般的な話冒険者は魔獣駆除や素材採取をしている者がほとんどだそうだ。
世界中を旅しているのは一握りの上級冒険者だけ。
それ以下は、街の治安維持や魔獣災害の対処に注力している。
俺がやろうと思っていた仕事だ。
だとしたら彼女は先輩って事になるのだろう。
更に興味が湧いた。
「それでケイ、貴方私のチームに入りなさい」
「おっけー先輩。俺も丁度冒険者になりたいと思ってたんだよ」
「いいわね。じゃあ早速、ダンジョンに行きましょう」
ダンジョンか。
それは俺の時代にもある。
不定期に世界のあらゆる場所にランダムに出現する。
発生原因は魔力濃度の長期的な密度増加。
まぁ、当たり前だが世界中の魔力濃度をコントロールするなんて技術は無い。
だから、俺の世界でもダンジョンはあった。
魔導士の仕事の一つはそのダンジョンを破壊する事だ。
俺自身、何度か魔導士の付き添いとしてダンジョンに入った事がある。
初めての仕事としてはやりやすい部類なんじゃないかと思う。
「よし、いいぞ」
「偉く簡単に決めるわね。ダンジョン探索なんてBランク以上の仕事よ?」
「誘ったのはそっちじゃないか? それにダンジョンは何度か経験があるから」
「へぇ、冒険者じゃないのにダンジョンには入った事あるんだ? まぁ
裏路地から、かなり話が発展した物だ。
そう思いながら俺たちは街を後にする。
一応帰還用の位置情報タグを付けてと。
「ダンジョンは徒歩で2時間くらいの場所にあるわ」
「そうか。だったら飛ぼう」
『了』
アイシアの声が聞こえた瞬間、俺とハクに飛行の付与魔法が掛かる。
念話の術式を利用し、付与者の思考がアイシアに伝わる。
そして、アイシアはその通りに術式効果を発生させる。
これが未来の飛行魔法だ。
「飛行魔法? しかも他人に付与なんて、それだけでもBランクは硬いわよ貴方」
「どうも。移動何て短いに越した事はないだろ? 急いでいこう」
ハクの指示に従い草原を越える。
すると沼地が見えて来た。
「あ、あそこ!」
そう言ってハクが指したのは、どう見ても沼の泉だった。
しかし、俺もアイシアもそれに気が付く。
魔力の反応が薄く沼の水面に。
「水面自体がダンジョンの入り口になってるの」
そりゃ、視認だけで発見するのは難しそうだ。
「行くか」
「えぇ」
俺とハクは沼地に飛び込んだ。
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