第6話 復讐騎士


 何故、こんな事になってしまったのだろう。


 空には月が輝いているのが見える。

 参陽弐月、時代は変わっても空は同じだ。


 夜空の下の訓練場。

 静けさの中に影が3つのみ存在した。


「貴様の蛮行、最早許す事などできはしない。毎晩毎晩、王女様の慈愛に漬け込み我欲を満たすその有様。客人と我慢するのももう限界だ。貴様はここで疾く死ね!」


 鉄の剣を俺に向け、彼女は俺にそう言った。

 甲冑が邪魔で顔は見えないが、鎧のデザインと声から女だって事は分かる。

 そして、このメイアの近衛騎士らしい。


 まぁ、こいつが盛大な勘違いをしている事は理解できる。


「ま、待って下さいルナ」


 騎士はルナという名前らしい。


「いいよメノウちゃん。俺もこの人に言いたい事あるし」


「しかし、ケイ様!」


 勘違いされるのはいい。

 正直、男の部屋にこんな子供が毎日来てたのも状況的におかしな話だ。

 無理は無いと納得しよう。


「来いよ。殺したいなら殺してみろ」


 こいつもこいつのプライドで動いでいるのだろう。

 それを見て、それに照らされて、俺も少し思う。


 俺は魔術師。

 魔導士の為に、魔法を作る仕事をしていた。

 裏方だ。

 けれど、そんな俺にもプライドって奴があるらしい。


 王城で俺は勇者と認められなかった。

 俺の魔法が認められなかった。

 だが、俺も大人だ。

 一人で生きていける。

 だから、たかが一度の失敗で悔しいなんて思う訳もない。


 けど、何故か不満があった事は認めよう。

 それは多分、侮られた事への不満。怒りだ。


(アイシア)


(イエス。自動迎撃で対処は可能と予測されます)


(要らない。全部、身体強化に回してくれ)


(それは、余り効率的スマートな方法では無いかと)


(俺はこいつが気に入らない。それ以上の理由が居るか?)


(了解)


 術式構築開始。

 代行精霊実行

 ワンからファイまでの全ての演算機能を解禁。


 反応強化。

 耐久強化。

 身体強化。

 身体強化。

 身体強化。


陸重詠唱シクススキル乾坤一擲バーストスピア


「一つ聞いていいか?」


「なんだ下郎」


「なんで今日なんだ? 俺が召喚されてからもう20日近く経ってるだろ」


「いい加減、許す事ができなからだ。まだ幼い姫を何度も呼びつけ、汚らしい欲望をぶつける。そんな事が許容できよう筈もない」


 それはおかしい。

 どう考えても納得しがたい。

 だったらおかしいだろ。

 意味がわからないだろ。


「だったらお前は、初日に来てねぇとおかしいだろうがよ!」


 全身の力を一点手中させる乾坤一擲。

 拳に集められた力の矛先は、俺の股下。

 地面を穿つ。


 衝撃が訓練場のタイルを歪ませ、ヒビを走らせる。

 亀裂は連続する衝撃の中で拡張され、奥深くまで拳の衝撃が練り込んでいくのを体感した。


 目立つ魔法が視たいなら最初からそう言えよ。

 効率度外視で、凝り固まった思考をぶっ壊してやるよ。


「準備運動は終わりだ。かかって来い、駄目騎士」


「勇者の出来損ないと……」


「弱い相手にしか剣は向けられないのか? 騎士道プライドってのも大したこと無いんだな」


 腰が抜けたのか、ルナという騎士はへたり込んでいた。


 そして、王女様はその様子を目を大きく開いて見ていた。


 あぁ、この後どうしよう。

 爆音出して城の奴らに気が付かれる。

 勇者なんて露程も興味ないんだけど。


(防音結界は張ってますよ。朝までに私が大地を修復しておきます)


(助かるよアイシア)


(全く。まだまだ子供ですね)

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