胴-2
店員はマコトに声をかけた。「えぇと、ヤマネマコトさんでしたね。良ければこの後お時間ありますか?」マコトは驚いたが、直ぐに頷いた。「そうですか、そうしたら私はあと少しで上がりですので、クチナシさんの...リコさんのお話をお聞かせしましょうか。」マコトからしてみれば、願ってもない申し出だった。手がかり2人が去っていってしまった今、頼みの綱はこのおじいさんしかいないのだ。「ぜ、ぜひお願いします。近くの公園で待ちますので...」マコトはそう告げ、結局三杯分のミルクティー代を支払い店を出た。ここから公園までは大した距離ではない。エナメルバッグを抱え直し、少しの道のりを歩き出した。
少し肌寒い季節だったのに、先程のミルクティーはアイスだった。ホットのブラックコーヒーを自販機で買い、公園のベンチに腰掛ける。「ねぇ、リコさん」「何?」「リコさんって、クチナシさんだったみたいだね」「うん、でもだからって何も思い出せないや」「そっか...」マコトはクチナシという苗字には嫌な思い出がある。そんなに多い苗字でも無いはずだが、ここは田舎町。どこに親戚がいてもおかしくはない。「リコさん、話聞いてくれる?」「うん、いいよ」「私さ、クチナシさんっておばさんにパワハラされて学校の先生辞めたんだ。」「へぇ」「だからもしかしたら...」言いかけたが、店員が来たので大袈裟に「どうも!」と声を張った。店員は隣に座ったと思うと、頭を抱えた。「はぁ...私、あのお店の店長をしているんです。」店長は話し出した。「クチナシリコさんはうちのカフェで1ヶ月ほど前からアルバイトをしていたんですね。ただ、勤務態度が悪かったり無断遅刻や欠勤が多かったものですから、退職勧告をして辞めて頂いたんです。それが、こんなことに...」店長はリコが行方不明になっていることに責任を感じているようだ。「リコさ...クチナシさんは、どんな人でしたか?」マコトは尋ねる。店長は頭を抱えたまま、「明るくて良い子でしたよ、少し暗い顔をしていることが多く、クレームにも繋がってしまっていましたが...」暗い顔?今のリコからは想像もつかないが。ひとまず、店長の話を総括すると「リコは勤務態度が良くない上に接客態度も悪かったので、クビ同然の形で退職した」ということになる。
「そういえば、なぜ彼女のお友達とご一緒に?」店長が尋ねる。不思議に思っても仕方ない。マコトは、エナメルバッグを自宅近くで拾ったこと、その情報をもとに銅が港高校まで行ったこと、そこで彼女たちに出会ったことを掻い摘んで話した。店長は「なるほど、首山で...でしたら、例の事件の可能性も有り得ますね」と訳知り顔だ。「どういうことです?」とマコトが尋ねると、店長は顔を近づけ小声で「ここだけの話ですよ...」と話し出した。その内容はこうだ。・昔この街を身体に見立てたバラバラ殺人事件が起きた。・その時は首山で頭部が見つかり、遺体は市の形と対応した部位が隠されていた。・その事件の犯人は「ここはそういう街だ」と話していた。店長は、スマホの地図アプリをマコトに見せながら、「ここ銅が港が胴体で、零具川が脚で...」と説明してきた。
バカバカしい、とマコトは思った。この街の形はよくよく見てみても胎児のような形で身体に見立てるのは現実的ではない。しかし、過去にそう言った事件が起きたことは事実らしいし、実際に今回も首が見つかっている(店長はそれを知らないが)。模倣犯だろうか?
マコトは店長に感謝を伝え、温かい缶コーヒーを奢った。店長は「カフェの店長にコーヒーを渡すなんて挑戦的ですねえ」とニヤリとした。悪い人では無さそうだ。マコトは笑顔を返し、公園を後にした。
それにしても、空田市を身体にねえ...
ん?
まさか...マコトはゾッとした。
直ぐに空田市の成り立ちを調べてみる。○○県空田市、人口○万人、面積○平方キロメートル...マコトの思ったような情報は出てこず、一安心した。気が緩んだマコトは、その下にあるオカルト掲示板の見出しには気づかなかった。
“空田市はバラバラ人身供養が地名の元!?模した犯行も...!”
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