クレープフレーバーな初恋

𠮷田 樹

プロローグ「クレープは失恋の味」

「あ、そういえば駅前に美味しいクレープ屋さんがねっ……」


 放課後、学校の空き教室でそう言った彼女からは、楽しそうな言葉とは裏腹に焦りのようなものが感じられた。


「希美。クレープ屋さんには行かないよ」

「……え、でも、先輩、クレープ好きでしょ? 美味しいんだよ?」


 何かを求めるようにそう言った彼女の気持ちを俺はよくわかっている。

 けど、わかっているから従うのでは意味がない。


「希美」

「な、に?」

「もう一度言う。別れよう」

「……私のこと嫌い?」

「ああ、嫌いだ」

「……あはは。……そっか。あはは……ごめんね」

「……じゃあな」


 乾いた笑顔を張り付けた希美の表情は、夕日に照らされ影を作っていた。

 それを見ていることがいたたまれなくて、俺はその場を後にした。


 それ以来俺は、クレープを食べることができなくなった。

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