間章


 研究施設を後にしようとするアルベルト。道に迷いかけていたが、セトとルルワが律儀に案内してくれるお陰で何とか迷宮入りせずに済んでいる。


 スルトの傷は再生し、顔も安らかな物へ変化している。

 こうして近くで見てみると、大人びて見える彼女にも、少しだけ子供っぽい感じも残っているように思える。

 アルベルトは自分よりも、圧倒的に彼女の方が綺麗だと、思い込んでいる。それでもスルトは、自分の事を「綺麗」だとか「かわいい」だとか褒めてくれる。

 “恋人”――なんて、考えた事もないが、中学でも作ることができなかった“親友”。彼女となら、そういう関係になれる気がした。


「んっ……んんぅ……あったかい……」


 目を覚ました彼女が、早々に寝ぼけた発言をかます。

 自分の置かれている状況がいまいち理解できないのか、目をパチパチさせて上の空を見つめている。


「おはよう。気分はどう?」

「アベ……ル?」


 ようやく、自分が『お姫様抱っこ』とやらをされている事に気がつくと、瞬く間に顔が真っ赤に染まった。

 アルベルトは首を傾げ、急に赤くなった彼女の事が心配になった。


「アベル!! 下ろして! 下ろしてってば! 重たいでしょ? もう歩けるから! じ、自分で歩けるから!」

「……平気? 熱があるの?」


 呂律が回らないスルトを余計に心配したのか、アルベルトの掌は、彼女の額に当てられた。


「っ……」


 唇を繕い、さらに顔が赤くなる。髪色と同化したっておかしくないくらいに。


「少し熱いよ。私は平気だから、ゆっくりしてて」

「だ、だから! 自分で歩けるんだってば!」


 そんな茶番劇を、小さな子供二人は時折顔を見合わせてつつ、興味深そうに観察していた。


 しばらくすると彼女は黙り込み、目を伏せながら言葉を紡ぎ始める。


「私がアベルに介抱されるなんて……ちょっと屈辱」


 顔を紅潮させたまま、ぼそりと呟く彼女を見て、昔の出来事を思い出してしまい、僅かに湧き出てくる懐かしい感覚が心を締め付けてきた。


「……そう……ね」


 気が緩み、彼女を落としてしまう。


 どしーん、という衝撃と共に、彼女の絶叫が薄暗い通路に木霊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る