プロローグ
その身のさだめ
徐々に、徐々に。
このからだを蝕む存在が、血管の中で蠢いていくのを、ひしひしと感じさせられる。
度々、こういう感覚に陥る。五年前のあの日から、ずっと。自分は何も変わっていない事と、この身体は“普通“からは遠く掛け離れた存在であることを毎回のように実感させられる。
夕暮れの下にある巨大な都市、ドクタロプ。アディシーズ帝国の帝都。
立ち並ぶ高層ビル、道に埋め込まれた電磁誘導レールに沿って走る浮遊自動車、そして、誰もいない道端で客引きをするロボット。
紅の大空の傘下に広がる、人類の文明の結晶とも言える街には、人は誰一人としていない。
獣と、この空に似合わない空色髪の少女のみがいた。
火を吹く大剣型のフォービデンギアにその身を預け、常人には到底耐えられない程の負荷が降り掛かる高速移動で、標的に接近する。
付け狙う標的の、その姿は――まさしく“異形”。
全身に赤黒い体毛が棘のように生えた、獣のような体つきにも関わらず、人の真似事かのように強靭な二脚で地に足をついている。
懐に潜り込んだこちらを見据える左右非対称の縦開きの碧眼は、四つ全てが恐ろしい程しっかりと見開いている。
全身から冷や汗が吹き出て、怖気づき、剣を振るう暇もなく、腹へ強烈な蹴りを貰う。
内臓が捻り潰され、肋骨の骨も数本折れたのを、時間の感覚が遅くなった世界で血の滲む感覚と一緒に痛感する。
続いて衝撃が降りかかり、ストロング合金製の貯水タンクに激突。水が溢れ出ると同時に、大量に吐血した。
その〈
四つん這いになり、天へと咆哮を轟かせ、その身に紅いエネルギーを纏う。
強靭なる爪へそのエネルギーを纏わせて、巨大な刃を形成した。――まるで、こちらの真似事かのように。
エネルギーを爆破させ、推進力を得た〈
貯水タンクの合金が切り裂かれた直後、吹き出てくる大量の紅が、自分の左腕が切断された事を知らせてくる。
遅れて降り掛かってきた、耐え難い激痛に腹の奥底から絶叫が吹き出す。攻撃を貰ったのは腹、胸、腕だけだが、最早関係なく、全身が痛くて痛くて痛くて堪らなかった。
〈
ゴキゴキゴキゴキ、という、骨が高速生成されて組み直されていく音。
グチュグチュグチュ、という、肉が、皮膚が高速で再生し、組織が作り直されていく音。
そして降り掛かる激痛。
地獄――と呼ぶには生温すぎる。
“再生”が終わり、彼女は――アルベルトは〈
獣はしゃがんで、その恐ろしい掌で、彼女の右頬を包み込む。
白い頬に刻み込まれた〈
嗚呼――確信した。
闘いの最中、ずっと揺らめいていた疑問が確信へと変わった瞬間――
いつも夢は覚める。
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