第2話 結婚を迫ってみる
その後も、会うたびに私は結婚を匂わせる羽目に陥った。
牧村先輩からは、叱咤激励を受けている。
「何、気にしてんのよ? もう七年も付き合ってるんでしょ? それとも、他に周平さん、誰かいそうなの?」
そりゃいないだろう。会っている頻度から言って。
「いなさそうな気はします」
周平の趣味は潜り……ではない、スキューバダイビング。
彼のスキューバ仲間とは会ったことがあるが、彼らは皆、私を周平の彼女と認識してくれている。それに、他の女性の陰があったら咲ちゃんが教えてくれる気がする。咲ちゃんとはスキューバとは関係なく仲良しになった。
しかし、やっぱり結婚についてはどこ吹く風だった。
あんまり言うと嫌がられるかもね……それに、そこまでして結婚したいわけじゃないし……
ただ、年は取るのよ。このままだと、どんどん妊娠も出産も難しい年齢になってしまう。
式を挙げて、新居を借りてってやっていたら一年なんかあっという間。
結婚を決めた麻衣が、死に物狂いで頑張っても、今からだったら最速で来年の三月にやっと式が挙げられるらしい。
「まあ、それは式を挙げるからの話であって」
牧村先輩は、入籍、同居、それから、いつか式を挙げて、新婚旅行はまだ全然未定という順番らしい。
「妊娠は確かに二十代のうちにって言うけど、ほとんどのお母さんは三十代以降だからね。焦り過ぎよ」
既婚者が、余裕を語らないでいただきたい。
まだ、スタート時点にも立っていないのである。
「三連休、ダイビングの予定が入っちゃってさあ」
周平が申し訳なさそうに言いだした。
「スッゴクいいポイントで。芦沢さんが連れてってくれるって言うの」
芦沢さんはダイビング教室の大先輩だ。
「行き先、海辺になっちゃうんだけど」
「全然いーよ」
私はダイビングはしない。だから見物だけになってしまう。
「あ、でも、麻衣がライブのチケットが取れるかもって言ってたな。三連休の初日」
私は思い出した。
「麻衣ちゃん、結婚式の準備で忙しいって、言ってたんじゃないのか?」
うっかり口を滑らせて、周平は口をつぐんだ。
私の前で結婚という言葉は禁句だとでも思っているらしい。私の方は、もはやあきらめモードだった。
牧村先輩や、課長や係長の奥さんみたく、ものすごいオーラを醸し出すタイプにはできていなかった。
結局、私は、ライブを口実に、周平とは一緒に行かないことになってしまった。
それぞれが別々の三連休。
一週間、周平とは会わなかった。
周平も悪いと思っていたらしい。
結婚話を連発しすぎて、気まずかったのかな。戻ったというラインは来ても、会おうって話にならなかったから。
久しぶり……って言っても一週間ぶりなだけだけど、ちょっとだけ渋い顔を周平はしていた。
「結婚はさあ……いつか絶対するけど、今じゃないと思ってるだけだよ」
「する気あるの?」
「いつかはね」
「それだときびしいかもしれないなあ……五年先とかかもしれないしね……」
いつもみたいに食事をして、それだけ話して、後はダイビング仲間の話とかして、別れた。
その間中、ずっと高瀬君は店の外で待ち続けていた、らしい。
会う約束なんかしてなかったのに。
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