ダンジョンが生活圏の人

@runtatta_san

第1話:色々めんどくさい

「あー、また寝てたわ」


久しぶりに見た、昔の夢を思い出しながら俺は周りを見渡した。

意識が途切れる前に殺したゴブリンの死体が、殺した時のまま転がっている。

昨日からずっとダンジョンに潜っていたから生活が不規則になっていて

気が抜けたその一瞬に襲われた睡魔で意識が途切れたのだろう。

まあ、そのうち慣れる。

コポコポコポ…

意識が途切れる前に、セットしておいた水が沸騰していた。


「さてと、これでようやく飲めるな…」


ダンジョンの転々とした箇所にある水たまりの水をすくって

煮沸するという作業は面倒ではあるものの、

こういったひと手間で飲む水は本当においしい。

持っていた携帯食料を口に入れ、

軽めの空腹を満たしてから、俺は再びダンジョンの奥を目指した。


俺にはなぜかよくわからない記憶がある。

それは本当に退屈な人生で、その終わりは過労死だったと思う。

だいぶ大変な人生だったし、死ぬ最後の記憶はやり直したいと俺は

思っていたようだ。

そこから気づけば、赤ん坊になって、

この世界にいた。

この世界は、前世の世界と近いものだったが

突如として、ダンジョンとよばれる訳の分からない迷宮が

世界各地に発生した世界だった。

ゲームでよくある魔法も存在し、ダンジョンからとれる資源も

社会生活の一部になっていた。


そんな世界で、前世のよくわからない記憶持ちだった俺は、

見事にコミュニケーション不良に陥って

いつの間にか、家にも学校にも居場所がなくなっていたので、

学生でもダンジョンに潜れる資格を勉強して取得し、

こうして一人探検をしている。


最初は怖いゴブリンやスライムだったが、

小規模なダンジョンの特徴として弱いモンスターが数で来ないことが

幸いした。

一体ごとに丁寧に対処することで、一人でも対応することができた。

そうでなければ、とても一人で対応することはできなかったと思う。

まあ、いい。

家とか学校とか、何かにつけて面倒なものから逃れられる

弱肉強食の、このダンジョンという世界は自分にとって

本当に癒しになっていた。

自分が何者かということさえ忘れてひたすら没頭できる

ただそれだけの場所なのだ。

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