第二話「屈辱と復讐 その原因」

 ビリッ!


 胸元に響いた音に、ついに固く閉じられていた瞳が見開かれた。

 乳房を乱暴に握りしめられる痛みが、全身を螺旋のように駆けめぐる。


 せめて逃れようと体をよじらせるが、ベッドに拘束された身では逃れようもない。


 乳房に舌が這い回るおぞましい感覚に悲鳴を上げる。

 やめてくれと、何度も哀願するが、それさえ耳に届いていない。

 出来ることがあるとすれば、この悪夢が一瞬でも早く終わってくれることを祈るしかない。


 祈る?


 何に?


 神から最も遠い存在である私は、何に祈る?



 女として最も大切な場所を覆い隠す布が外された。


 自分の身に、これから何が起きようとしているのか、わからないわけではない。


 信じたくないだけだ。


 誰にも触らせたことはない。


 誰にも、見せたことさえない。


 その場所が今、乱暴に開かれ、男の見せ物になっている。


 体が壊れてもいい!

 男の視線から逃れるなら、死んでもいい!


 狂ったように暴れるが、万力のような力で腰を押さえつけられた身で、逃れることは出来ない。


 抵抗することさえ、言葉で嬲る口実を男に与えるだけだと思い知らされるだけだ。

 下腹部に走る虫酸が走るような嫌悪感が、徐々に鈍いような、くすぐったいような、不思議な“刺激”へと変化して行く。


 下半身が、むず痒い。


 弄ばれ、聞くに堪えない言葉にまじり、卑猥な音が耳に届きはじめたのは、それからすぐのことだ。


 水をこねくり回すような音が、何を意味するか。


 その音源が自分であるという羞恥と屈辱が、精神を容赦なくむしばんでいく。


 ―――みんなが、こんなこと、されたんだ。


 もはや為す術もなく、耐えることだけが、出来ることだと思い知らされた。


 ―――ディアナも、クリスも、ベスも……みんな、こんなこと、されたんだ。


 不思議系のディアナ。

 ボーイッシュなクリス

 大人っぽいベス。


 大切な友達。

 彼女たちもまた、こんな屈辱を味わわされたんだ。


 そう思うだけで、涙があふれてくる。


 不意に、腰を拘束していた力が緩んだ。


 一瞬―――


 終わった?


 疑いつつも、希望の光を見た気がした。


 だが……


「っ!!」


 体が引き裂かれた。


 本気でそう思ったほどの激痛に、美声を讃えられる喉から悲鳴が絞り出される。


 自分の体に、何が入れられたのか。


 自分の体が、どうなったのか。


 女の子として


 ―――否。


 女としてわかる。


 男が、容赦なく体を弄び始める。

 腰同士が激しくぶつかり合い、血の混じった水音が響き渡る。

 そのたびに遠のく意識を、乳首に走る甘い痛みが現実へと引き戻す。

 痛みにグシャグシャに泣き崩れた顔、乱れた髪を直す余裕なんて、ない。


 ただ、これが悪夢であること祈るだけだ。


 何が夢で、


 何が悪夢で、


 何が現実なのか―――


 何も判らなくなっていく。


 ―――ソノウチ、キモチヨクナッテイクヨ?


 男は、強引に唇を奪い、舌を顎の中にねじ込んでくる。


 吐き気を催す嫌悪感の中で、そう囁かれた。


 そうかもしれない。



 屈辱より


 苦痛より


 快楽の方がいい。


 溺れてしまえば、きっと、そっちの方がマシ。


 いつしか、そう思うようなった。


 痛みが快楽に変わるように。


 悲鳴ではなく、歓喜の声が出ますように。


 溺れてしまえば、逃げることが出来る。

 私は、逃げてしまえばいいの?


 逃げる?


 何から?


 悪夢から。


 悪夢って?


 今、されていること。

 男の動きが激しさを増し、息が荒くなっていく。

 男がうめき声をあげた、次の瞬間、


 胎内に、焼けるような熱が走った。


 体そのものが焼き払われたような悪寒の中、暗い闇の中へと、意識は落ちていく。


 ぼんやりと浮かぶ、自分を見つめている男の顔。


 女の子としか思えない顔。

 そこに浮かぶ視線は、あからさまなまでに、自分を見下していた。

 

 ―――許さない。


 遠のく意識の中、自分が男を睨み付けることが出来たかわからない。


 ―――絶対に、許さない!!


 その言葉を心に刻みつけ、意識を失った。



 ぐったりとする女から身を離し、少年は改めて女の体を眺めた。


 ―――自分が女にしてやった。


 男の身勝手な言い分を呟きながら眺める女の体は、折れそうなほど華奢だ。

 体つきからすれば、中学生。

 自分と同じくらいだ。

 その体は、鎖と革手錠によってベッドに拘束され、女の子からは白い白濁物と共に、うっすらと血が流れている。

 ツインテールの金髪が乱れ、白い肌には、自分が残したキスマークが淫らな跡を残している。

 その全てが、少年を満足させる。

 ベッドの脇に置かれたタバコに火をつけ、数回吸った。

 肺に入り込む煙にむせび、少年は灰皿にタバコをねじ込んだ。


 ―――これで


 涙の跡が残る端正な顔を眺めながら、少年は思った。


 ―――5人全員、僕のモノになった。


 僕のモノ。


 そう思うだけで、再び下半身が熱を帯びる。

 ムラムラとした、どす黒い欲望がわき上がってくる。

 もっと、女を楽しみたい。

 女が快楽に溺れる姿が見たい。

 先日、やっと絶頂を覚えたのはあの巨乳のメガネだったな。

 清楚な女があれ程乱れてくれるのは、思い出すだけでたまらない。


 少年は、ベッドから降りると、そのまま部屋を後にした。



 少年はその時、忘れていたのだ。


 自分がモノ扱いした少女達が、一体、どういう存在であるかを。



 ぐったりとした少女が横たわる部屋の外。


「なっ!?」

 ドカバキグシャッ!

 少年の短い悲鳴と、骨肉を砕く音が響く。

 すぐにドアが開かれ、入ってきたのは4人の少女達。


「……エルシィ」

 ベッドの脇に立つ黒髪の少女が、ベッドの上に横たわる少女を沈痛な視線で見る。

「エルシィにまで手を出すなんて!」

 黒髪の少女は、きびすを返すと部屋を出ようとした。

「アリス、どうしたの?」

 その腕を止めたのは、メガネをかけた少女。

「止めないでベスっ!あいつを殺しにいくのよ!」

 アリスは答えた。

「袋だたきにしてダストシューターに放り込んだだけじゃ、気が収まらないっ!」

「力を封じられた私達には、彼は殺せないわ」

「―――くっ!」

「復讐の時を待つのよ。アリス」

「……」

「クリス、ディアナ」

 メガネをかけた少女、ベスは、アリスから手を離すと言った。

「エルシィを連れて逃げます。金庫は破ったわね?」

「はい」

「現金が日本円で10億ですから、しばらくは暮らせます」

「よろしい―――」

 ベスは、ちらりとアリスに視線を向けた。

「あなたがリーダーよ?アリス?」

「―――っ!」

 カッと頬を赤く染めたアリスは気色ばんで言った。

「逃げるわよ!?いずれ、絶対に、この国で、あの男を殺すために!」



   

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