観測者2

先日、友人から

「そのようにに周りの目を気にして、苦痛ではないのか?

なんのために、そうやって【善い人】を振舞うのか?」

と聞かれた。


その時は流れで、それらしいことを答えてしまったが、今になって私は悩んでいる。

いずれ、神になるというのにこんな問いに悩んでしまっていては信仰が揺らいでしまう。


私は師匠に聞きに行くことに決めた。


「師匠、先日友人から人生で周りを気遣う意義を聞かれたのですが、師匠はどんな考えをお持ちですか?」


「あははは。そんなこと考える必要ないんだよ。たしかにすべての行動に理由があることは間違っていないよ。

しかしね、それをすべて把握する必要なんて無いし、そんなことはできないんだよ。

その友人は単純に考えすぎだね。人生だって縛られているなんて気づかなければいい話だけだしね。」


「全知全能の神なのに、そこは曖昧でいいんですね。ははは」


「うーん。全知全能だからこそじゃないかな?

無知こそ個人にとっての一番の幸福だと私は思うけどね」


「なるほど。こんど友人に話してみます」


「え?!もしかして知らないの?

君の友人、昨日自殺したよ?てっきり知っているのかと」


私は神の見習いになって初めて、思考が一瞬停止した。


そもそも、人間界についてもっと理解を深めるために作った友人であったが、流石に昨日一緒に話していた人間が、もうこの世にいないとなると何か思うところがあった。


私は冷静に返した。

「知りませんでした。さすが全知全能ですね。でも人間は輪廻転生しますよね。新しい個体ってわかりますかね」


「いやーね。わかるには分かるんだけど。多分ねその内、削除されちゃうと思うなー」


「どうしてですか?」


「人間が自殺する場合ってね、環境要因が作用することが多いんだけど、友人くんの場合、どの人生でも、自殺っていう考えにたどり着いちゃうわけよ。

つまりね、死に続ける永久機関になっちゃったみたいなのよ」


「そうですか。少し残念ですね。あの人間の話は好みでしたから。」


「まあね、私たちの実験でもあったんだけどね。」


「実験?なんのことですか?」


「人間の文明を革新的に変化させるための実験さ。最近、この世界観にも飽きてきただろ?だから一部の人間の思考を俯瞰的にしてみたらどうなるかなーって」


「なるほど」


「まあ、虫かごで実験してるみたいで楽しかったわ」


「はあ...そんなもんですか....」

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