21

 皆を唖然とさせた不意安が、両腕を広げつつ交睫する。汪溢する彼女の自信を、黒野は、何処かで見たような気がしていた。

 

 私の時間だ

 

 あの、劇場での登板挨拶。

 実際には、あの時の不意安は、演者に相応しく、実に礼儀正しい振る舞いを見せており、今現在の、傲然極まりない様子とは似ても似つかなかったのだが、しかしこの余りに極端な対照は、陰画と陽画のように、全く等価な、しかし不気味な逆転を帯びた風味を、黒野へ見出させたのだった。

 彼女は、目を閉じたまま、

「黒野さん、『ロレンソ了斎』という人物を御存じですか?」

 彼は、数日前に煝煆から聞いていたそんな名前などすっかり忘れていたが、

「琵琶法師だった男、……でしたか? 来日した当初のイエスズ会を助けたと言う、」

 イロハが、臨戦態勢を解かぬ為にか、いつもよりも緩徐にそう述べれば、不意安は漸く目を開いて、優雅に指を一本立てつつ、

「流石、博識であらせられますね。はい、ザビエルに出会ったことでカトリックへ回心し、ザビエルを――正確には専らその同行者を――扶け続けた男です。貧しい生い立ち、乏しい視力、そして風体も決して優れてはいなかったでしょう。にも拘らず、足利、大友、高山、京極、織田、豊臣と、枚挙に遑の無い英傑達に謁する栄光に浴し、特に信長の前では、日蓮宗の高僧、朝山あさやま日乗にちじょうを宗論で完膚無く破り、日本におけるカトリック宣教の大きな足掛かりを築いた男でした。この男の存在が無くば、イエスズ会も日本では何も果たせなかったでしょうね。

 つまりですね、この、忌ま忌ましき法敵ロレンソ、或いは、我らこそは論戦で敵無しという風情を纏っておいて不様に敗れた、日蓮僧でも良いですが、いずれかを、私は、」

 突然、空いている方の手を、氷塊でも握っているかの如く、戦々わなわなと慄わせつつ、

「この、で、どうにかしてやりたいのですよ! ロレンソが山口でザビエルに出くわせないようにするでも良し、またはもっと根本的に、奴が平戸で早世するように仕向けても良し、そして最上なのは、私が朝山に代わって魔王信長の前でロレンソを論駁することですが、……まぁ、これは、中々難しいでしょうね。」

 黒野は、凝然と目をしば叩いてしまう。

 ……此奴は、一体何を言い出した?

 そう彼が戸惑っている間に――文字通りの意味で――怒髪衝天の氷織が、

「不意安! 滅多なことを! ……世界間移動、時空旅行の企図は、大罪だと知っているでしょう!」

 光の優婆夷は、露も臆せずに、

「だとしたら、……どうなのです?

 だってそれが、矮小なる役人共の定めた、罪とやらに当たるとしても、そのの後に私や黒野さんがこのに居なければ、何の意味も無いではないですか。生死はともかくした者を、貴女達はどう罰すると?」

 氷織が、化け物に直面したかのような顔を作って一歩退けば、彼女の意気を吸い取ったかのように、不意安はますます元気になって行き、

「つまり、先に申し上げたとは、私は本来、☆△□王国で何かのどさくさに紛れて、黒野さんと共に〝行方不明〟となる筈だったのですよ! 1551年の日本への旅が、成功裡に終わろうと、或いは不様に丸焦げ死体二つを作り出すに終わるにしても、とにかく、我々は帰らぬ身となるのですからね!」

「何故だ!」

 煝煆が、そう叫んでから二三歩、腕を大きく振りつつ踏み進む。庇われていた黒野は、一瞬、何かきな臭い香りを嗅ぎ留めた気がしたが、それも気のせいではなかった。彼女の寛然とした袖口の辺りから、具体的な火口ひぐちが、隠しおおせ損ねた激怒のように、仄めきつつ漏れ出ていたのである。

「何故だ不意安! 貴様が、『菩薩戒義疏』ではなく寧ろ明曠みょうこうの『天台菩薩戒疏』に従って、つまり、捨身供養しゃしんくようとして自殺するのは――病的とは思うが――勝手だが、しかし、何故そこへ、塔也を巻き込まねばならん!」

「そんな、怒らないで下さいませ。」浄土門の優婆夷は、やはり至って恬然てんぜんと、「勿論私も、無為に黒野さんを危険に晒したい訳ではないのです。……まぁ、故郷へ連れ戻して差し上げたい、という気持ちも多少は御座いますが、」

 故郷。

 この、彼にとっては何よりも甘い言葉に、一瞬黒野の心が揺らぎかけたが、しかしそれを押し戻すような大声で、

巫山戯ふざけるな、貴様! 全く時代の異なる16世紀の日本へ拐かして、何が故郷だ! 浅薄なペテンを、しゃあしゃあと吐くな!」

 不意安は、しかし尚臆せず、話へ邪魔立てされては困りますね、とでも言いたげにただ肩を竦めてから、

「とにかく私の不帰の旅路には、黒野さんの同行が不可欠なのです。……いえ寧ろ、私が黒野さんに同行すると言った方が、正しいかも知れませんね。黒野さんの縁起、よすが、……つまり、故郷や親兄弟をこいねがう気持ちが、時空を超えた旅には必要不可欠なのですよ!

 そもそもですねぇ、黒野さん! 貴男はどうして、この世界へ流れ着いたのでしょうか?」

 不意安から飛び出た、突拍子もない問い掛け。

 黒野は、余りな脈絡の無さにただ戸惑うのみであったが、しかし、蟠桃は思わせぶりに笑い息を一つ吐き出し、煝煆も、露骨な窮した色を顔に見せる。

「御存じ、ないのですよね? なにせ、高位の神官の間でしか、共有されない秘密だそうですから!」

 不意安は、昂奮の漲溢ちょういつとして、その立派な錫杖で床をしたたか打った。打撃音の余韻と金属の音色が、い交ぜに響く中、

「ここは、この世界は、――私に身近な言葉を使わせていただければ、……浄土のようなものなのですよ。黒野さん、貴男にとってはね。」

 ……浄土?

 そう、ぼんやりと謎に包まれる彼の前で、おい、と煝煆が、今度は縋るように叫んだが、しかし狂える優婆夷は止まらない。

「つまり、学生生活、より言えばかつての現世そのものに飽いていた貴男、……ヴィデオゲームに出てくるような『魔術』への、素朴な憧憬を持っていた貴男が、不慮な死を被ったことにより、新たな世界として、そう言った場所を無意識に求めたのですよ!

 尋常な死においては、そうなりません。何せ、彼らは病苦なり餓えなり激痛なりに苛まれつつ、その苦しみからの解放を、正に、死に逝くのです。そんな、今の生活や今の世界が退屈で仕方ないなどと言う、贅沢な願いなど、今際いまわの際になど普通は抱けないのですよ!」

 陶然と、溜め息一つ吐いてから、

「少なくとも貴男に関しては、先の、往生する『実体』はなんぞや、という問題は起こらないでしょうね。なにせ、五体と精神が丸ごと揃って、まるで荷馬車で運ばれたが如く、そのままこの世界へやって来ているのですから。……これこそ正に、『不体失の往生』でしょう!」

 一人、ほしいままに話し続けている彼女は、矢庭に腕を蛇のごとく伸ばすと、妖艶な指仕草で彼を指招く。

「さあ、……黒野さん! 貴男のノスタルジアと、私の魔術とで、一世一代の大冒険と洒落込もうではないですか!」

 

 不意安が、深い笑みを泛べている。この若き優婆夷はこれまでも度々、まるで見た目の年齢に相応でない、碩学や弁説の鋭さを見せつけてきていたが、しかしこの笑顔こそ、全くもって奇童の業であった。そこに見られる悪意と独擅どくせんと含蓄は、いずれも夜闇の如く深く、そして暗い。二十歳にも届かぬと黒野に思わせていた生娘が呈するには、それらは、余りにも老獪であった。

「貴様、どこまでも勝手な、……おい、蟠桃!」

 黒野への隠し事による後ろめたさを誤魔化すかのように、煝煆が叫ぶ。

「蟠桃よ! カハシムーヌの会長として、黒野の庇護者として、……そして何よりも、国の威信と発展を担う大神官として、貴様はさっきから何をしているのだ! 何故こんな、過去改変に世界移動と言う、この上ない姦計を黙って見過ごせている!?」

 しかし蟠桃は、尚も眠そうな顔のまま、

「何故って、……お前、話を聞いていたのかよ?」

 座したまま述べる彼へ、煝煆は、憤然と二の句を継ごうとしたが、しかし叶わずに噤んでしまう。彼女は、蟠桃が、気怠げにはしつつも、剣へ手を添えているのに気がついたのである。

 お前なんざ、真面目に構えなくとも充分だ。

 この傲岸でさりげない示威によって、同僚がおののいたのを認めると、彼は満足そうに片頬を吊り上げつつ、

「さっきから、言っていただろう? 俺は、最初から不意安と組んでいたんだよ。あの☆△□王国――半ば未開の、万が一のことが有ってもまぁ不思議ではない地――で、俺はそれぞれ才気溢れる友と書生を失って、悲しみに暮れつつ帰国する予定だったのさ。」

 煝煆は、眩暈でも起こしたように蹌踉よろめきつつ、

「馬鹿な、……神官たる者が、そんな身勝手なのも信じ難いが、――そもそもお前は、無神論者の癖にして、何故仏法への謀略に望んで加担しているのだ?」

「無神論者、だよ!」

 蟠桃は、漸く立ち上がった。真面目に身構えた、というよりも、自らの内の熱に耐えられなくなったと言う風情である。

 それまでのたゆげな様子が撥条ばねになったかのように、一転忿然としつつ、

「お前等、本当に大概にしやがれ。何が神だ、何が仏だ、……何が裁きだ、馬鹿馬鹿しい! そもそもそんな神々しげで有り難いものが居るなら、俺の両親は死んでねえんだ。人の苦しみは人が排するしかなく、人の幸福は人が築かねばならず、人の道は、人が決めねばならねえんだよ!」

 此処までを嗄れた大音声で述べてから、はっとしたように声量を落としつつも、しかし尚も怒りに燃えたまま、

「そんな妄想好きで弱々しく、自立も出来ないお前等だが、しかし、啓典だの経典だの無数に分かれやがって、一つ一つ論破していたら切りがねえ。

 そこでだ、俺にとって、お前等暗愚な者共の妄想、『信仰』とやらが一つの形式に統一されることは、この上なく大きな意味を持つんだよ! そうすれば、残った一つの『教え』とやらの過ちを徹底的にし折るだけで、まともな道、自然科学の道程へ市民を啓蒙出来るってものだろう?」

 敬虔なる無神論者、とは、半ば道化た蟠桃の自称であったが、しかし、正しく今の彼は、という矛盾する形容でしか表せない言葉を、堂々と吐くのである。

 またこの男はつまり、かつて煝煆が黒野へ、お伽話のように語っていた遙かな夢を、現実に目指すとも宣言しているのだった。科学への純化の為なら、世界をも犠牲にしようという、全き狂信者。

 日々を共に過ごしていた、密かな狂気の存在に気が付き、黒野が戦いていると、

「蟠桃、」氷織が、頭の蛇の一々を、当惑げにおよがせながら、「貴男は、つまり、……二つの世界を、連鎖的に転覆させようとしているのですか? まず不意安の企みによって、16世紀からの日本の歴史を、大仏教国としての発展へとすげ替えてしまい、そして、そこから此方へやって来る〝旅人〟を、専ら仏教徒や無神論者にしてしまう。……そうやって結局、この世界の命運をも、大過去から改変しようと?」

 彼は、泛かんできた冷笑によって怒りを醒ましつつ、隣の共犯者を指差してから、

「此奴が浄土宗じゃなくて浄土真宗の輩なら、言うことなかったんだがなぁ。阿弥陀帰依専念過激派であった親鸞の血脈けちみゃくならば、ついでに、神道までも排除出来ただろうによ。」

 これを聞いた氷織は、粗っぽい手櫛によって蛇を悶えさせながら、

「そんな、馬鹿な。万一にもそんな愚かな企みが成功すれば、この世界の歴史は大きく改変され、……そもそも、蟠桃という男や不意安と言う女の存在も、影も形も無くなるのですよ!?」

。」

 突然、太く力強い声でこう述べた上で、すっかり鷹揚に構えているうら若き優婆夷へ、氷織はほとほと呆然と、

「理解、出来ません。……私には貴女の言うことが、全く理解出来ませんよ不意安!

 例えば、私は、人ならざる身、それも人々から軽蔑、嫌悪される生命として生まれましたが、そんな境遇によって生じた苦悶や自己嫌悪、そして何より、夫や神との出会いによる喜び、そしてそこから得られた愛や癒やしも、一切合切、私の、かけがえの無いものなのです! 最早、それらは、私なのです!

 不意安、私ほどの起伏は無かったかも知れませんが、貴女の人生にもやはり多くの、無価むげの大宝が、正負双方に有った筈でしょう! にも拘らず、何故貴女は、それらを当たり前のように否定し、おめおめと抛棄することが出来るのです!?」

 己を否定する筈のスーフィストによる、血の滲むような、自己存在主張。

 これを絶叫された不意安は、しかし、あからさまに戯けてみせた。具体的には、これ見よがしに瞑目しつつ、両手を粛々と合わせながら、

「『我』という幻想、誤りこそ、全ての慾の根源であり、全ての悪事の原因なのです。貴女もそれを捨てることさえ出来れば、あらゆる苦しみから解放され、そしてついには、……世の為に自らの命を抛つことも、厭わなくなるでしょう。」

 妻の怒りを引き継ぐようにして、白沢が、

「戯れ言を! 何が、『世の為』ですか! この世界が、学語世界から真摯に学びつつ、無数の者の人生を以て僅かずつでも積み上げてきた悠久の歴史を、全て台無しにしようとしているくせに!」

 しかし不意安は、殆どこれを相手にせず、

「現世肯定的な仏論については、私よりも真言宗、つまり煝煆さんの方がお詳しいでしょうが、……まぁ、最早我々は、宗論を弄ぶ段階ではないでしょうね。

 そう、そんな場合ではなく、今こそ私は、実にpracticalな取引を皆様へ持ちかけたいのですよ!」

 取引?、とだけどうにか返す白沢を、やはり殆ど無視しながら、

「いいですか? もしも私が望み通り、大願成就をこれから試みられれば、その首尾はどうあれ、私と黒野さんはこのから居なくなります。つまり、私か黒野さんのいずれかが『悪魔』なれば、残りの皆様はなんら障碍なく、☆△□王国へ辿り着けることになるのですよ! 八分の二、つまり25%で『悪魔』を射貫ける可能性が有る、これは、皆様にとって大きな利益ではないですか?」

 朗々とこれが述べられると、守谷が、漸くよろよろと椅子から立ち上がりつつ、

「それは、勘定が合いませんでしょう。いえ、確かに『悪魔』騒動は我々にとってこの上なく重大なものと思えておりましたが、しかし結局それは、我々八人の命が関わるに過ぎ無い話であり、世界という巨大なものと釣り合う訳など御座いますまい!」

 これを聞いた不意安は、ラビの方を鋭く向いて、

「しかしです、守谷さん。もしも、もしも真に残念なことに私と黒野さんが無為に絶命した場合、別に世界は全く揺るがない訳で、皆様にとっては不利益も無いのでは? 蟠桃とイロハさんにとっては、一応、自慢の書生を失うことにはなるでしょうが、

 それにですね、……恐縮ですが守谷さん、恐らく貴男は、私の持ち掛けんとしているの意味を勘違いなさっていますよ。」

 彼が訝しげに顰みを深めた隙に、不意安は言葉を継いだ。深く、冷たい、紅蓮の地獄からのような声音で、

「良いですか? 私と蟠桃から、皆様へ提示する選択肢は二つです。

 まず、素直に皆様が協力して下されば、私と黒野さんは恙なく世界間旅行のを執り行うことが出来ます。それが成功した場合世界は新生されるでしょうが、失敗すれば、いとも望ましいことに、『悪魔』の容疑者がただ二人減るのです。

 そして、……もしも、協力していただけないのならば、」

 彼女が、空を軽く打つようにして、右手の錫杖を一振りする。

 

 南無、阿弥陀仏


 日に幾万回もそれを称える念仏生活の成果を誇るかのように、口迅に行われたこの詠誦。それに対して身構えるよりも早く、黒野や煝煆は目を疑った。

 術者不意安の目の前に、球形の暗黒が現れている。暗黒な球物体ではなく、正しく、球状の暗黒。その闇は、俄な出現によって、まるで敷物を押し寄せたが如く周囲の空間を高密度に凝集させて、年輪の様な奇妙な円環模様を晒しているのだったが、この、文字通り完璧な、光子一粒も発さない真の闇は、自然科学を殆ど解さない者共すらも本能的に心底悚然とさせてしまう、底知れぬ不気味さを備えていた。

 尋常でない、明らかに異様な光景に、何が起こっているのか理解出来ない多くの面々が戸惑う中、

「「重力レンズ!」」

 二人がそう叫べば、不意安は満足げに術を解除しつつ、

「概ね、正解です。――まぁ私の場合は、光路ではなく、時空そのものを捩じ曲げている訳ですが、

 それで、つまり、もしも協力していただけないのならば、……皆様におきましては、私の術式によって空間ごと捻り上げさせて頂きまして、粉微塵にでもスパゲッティ状にでもなってもらい、そのまま、常しえに頂くことになります。」

 時空操作術。

 魔術に全く疎い黒野すら、その、尋常でない特異性と威力を感じ取った。明らかに人の持って良い力ではなく、正しき、神の領分。

 すっかり目を剝いている煝煆が、慄える手で不意安を指しつつ、

「何だお前、……光術師が、何故そんな、」

「その辺りは、難しいところですよね。」一瞬肩を竦めてから、「例えば氷術家ならば、氷そのものを生み出す流儀の者も居れば、冷気だけを生み出し、水分はそこら辺から借用する手法も可能でしょう。前者は確実で、後者は経済的です。そして火術師も同様に、炎そのものを生み出すのか、それとも可燃物と熱を生むのか、はたまたそれらに加えて助燃剤まで出現させるのか、色々と遣り方が有るのでしょう。

 つまり私は、光術師と言っても光を生み出すのではなく、……直截には、時や空間を捩じ曲げるのですよ! そうして引き起こされる破綻によって生成する、時空の悲鳴のような電磁波を、私は都合よく操っているのです! さすれば、私にとって、光の奇術などは余技の余技といったところであり、でその気になれば、今御覧頂いたように手近の空間を弄ぶくらい造作も無く、また、……命懸けな迄に励めば、世界間移動をも試みられる訳ですよ。

 ああ、私はいとも幸運でした。そうして時空、特に時間を操作出来るようになったことで、まず私はいつまでも瑞々しいまま、自分の年齢を忘れてしまう程に、こうして生き続けることが出来たのです! また、そうして得られた豊かな時間によって魔術や仏法を学び続けられただけでなく、此の度こうして、素晴らしい皆様、世代の友人とお会い出来たのですから、本当に、私はなんという果報者なのでしょう!」

 聖なる優婆夷は、再び、その両腕を陶然と広げながら、

「さあ皆様、厳正なる選択をどうぞ。法の国としての世界新生の為に、暫し私へ協力していただけますか? それとも、……私や蟠桃相手に、この場で、絶望的な戦争を始めてみますか!?」

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