【閲覧注意】密猟の夜~大隠遁者ダリオ・グラーノ再臨~(暗殺者ボスコ視点)

 ポータルドアは、屋敷やしき一室いっしつつながっていた。

 そとると、ぷるぷるとスライムがふるえながら屋敷やしき隙間すきまもりくさへと姿すがたかくしていく。


 スライムが生存せいぞんしていたのは本当ほんとうだった。


 屋敷のほうへかえると。

 学生時代がくせいじだい。あの、魔術師まじゅつし養成校ようせいこうの魔術教本きょうほん表紙ひょうしおなだい隠遁者いんとんしゃダリオ・グラーノの屋敷のかたちまえひろがっていた。

 魔術師として戦乱せんらんささえた最強さいきょうの魔術師は、終戦しゅうせんに隠遁したといていた。

 国王こくおうから幽閉ゆうへいちかかたち資産しさん凍結とうけつされて、この森で貧相ひんそうらしをしていたのか……。


 屋敷の屋根やねうえ古老ころうたたずんでいた。

 魔術師の月光浴げっこうよく。それは、つき魔力まりょくびるため。月の魔力とは、おそろしいやみちからそのものだ。


 ドサッというにぶおとではかった。

 不気味ぶきみなグチョリッというぎた果物くだものからちてつぶれたようなおとがした。


 くろころもがボロッボロのボロ。

 素足すあしにサンダル。

 その生気せいきないあしうらなにやらぬめっている。

 サンダルからへんみがれて、足元あしもと野草やそう湿しめりがひろまっていく。

 まさしく、伝説でんせつとして冥府めいふ旅立たびだった偉大いだいなる魔術師まじゅつしダリオ・グラーノの姿すがたがあった。


「大隠遁者がきてる」

「ボスコ、なにってんだ!さっさと、スライムっを潰して、ふくろめっにしろよ!

 ピエトにおこられるぞ!」とドォーモはすばしっこいスライムをいかけるのに夢中むちゅうで、ダリオ・グラーノの一撃いちげき回避かいひしようなんて態勢たいせいにはなかった。



首無くびな子豚こぶたよ、首をえ】

「首無し子豚よ、首を追え!」


 おぼえのある詠唱えいしょう呪文じゅもんたいしては、その呪文をオウムがえしすることで、たがいの呪文をぶつけって、無効化むこうかするのが、無難ぶなんな魔術師のやり過ごしかただ。

 しかし、圧倒的あっとうてきな魔力で、子豚とはおもえない巨大きょだいな首無し子豚が、俺の首無し子豚に突進とっしんして、さらにドォーモのあたまかってころがっていった。

 しまった。

 首無し子豚は首をるまで、首がある生物せいぶついかけまわし、パックリあたまからまるのみする。それまで、召喚しょうかん途切とぎれない。

 首あり子豚を召喚すれば、かった。


んだんじゃないのか?」


 ピエトもけつけ、じっとしている大隠遁者に長剣ちょうけんかまえる。


「スライムをっていて密猟者みつりょうしゃに殺されたんだろ」

「テンピもりで殺されていたのかよ……おいおい、大隠遁者が妨害ぼうがいして来るなんて、依頼いらいにはかったぞ!

 どうするんだよ!」

 ピエトは長剣をつよにぎりしめたまま、うごくことが出来ない。げるかどうかまよはじめている。


「……スライムっは死なないよ」



 ドォーモは首無し子豚に「縮石ちぢみいし」を突進直前ちょくぜんげつけて、びていた。それでも、脇腹わきばらはベッコリへこんでいて、ミドルポーションを二瓶ふたびんがぶみしている。


「俺、石工いしくっのとおちゃんっと一緒いっしょっに、スライムりっにったことあんだ。

 そんとき、そんときさ、スライムっが潰れるの、たんだ。

 そしたらさ、そしたらさ、アイツ透明とうめいっになった」

「「透明?」」

 ポーションを飲みっても、ドォーモはよろよろとあるくことしか出来ない。

「スライムはたたき潰して、して、道具どうぐ加工かこうすんだよ。透明なスライムなんかげたら、ぬめったあとでわかるぞ。

 ほら、あれだよ。あれ。カタツムリがとおった跡と一緒だよな?」と俺はドォーモのはなしとなえた。

 しかし、言っているうちに、大隠遁者の足元がぬめっていることが気になって仕方しかたが無い。


「大隠遁者の正体しょうたいは、スライムの高度こうど擬態ぎたいか?

それとも、あの死霊しりょう死体したいからっぽだからスライムの住処すみかとして浸食しんしょくされたのか?どうなんだ?」

 ピエトは長剣を構えたまま、後退こうたいはじめた。

「ボスコ、魔術師だろ!なんとかしろよ!」

 そう言われても、下手へたに詠唱なんてしようものなら、どんな魔術でねじせられるかわからない。だから、なにも出来ない。

「俺、もうやだ……げる!」

 ドォーモはポータルドアのある屋敷へ我先われさきげこもうとする。



 だが、大隠遁者ダリオ・グラーノのくちびるふたたうごき始めた。



なんじねむりのさまたげるいしなげ

 ながるるあめうちおも

 とむらかぜはこばれるかね

 死の秘密ひみつ賛美さんびせよ、石蔵いしぐら


 古老から、黒いなにおおきなものが出現しゅつげんして、せまってる。

 まるで、本当ほんとう巨大きょだい倉庫そうこそのものがはしって来るかのようだ。


 一生懸命いっしょうけんめいはしることしか出来なかった。

 かんじる。

 おぞましい魔力のかたまりせまっている。

 嗚呼ああ

 暗殺の依頼いらいなんてけるんじゃ無かった。

 ピエトに声をかけられ、うれしさがまさった。

 こわさよりも。

 嗚呼。

 もう、かえしがつかない。

 ドォーモ。

 すまない。

 弱い御前をきこんで。


吸血石きゅうけついしっをにぎって!

 っがくさっても、ハイポーションっでもともどせる!

 絶対ぜったいはなすなよ!

 詠唱魔術っよりも、こういう魔石ませきっのほうつよいんだ!」

 フォーリア一家の遺体から生気せいきったばかりで、まだ生温なまあたたかい石を、ドォーモがピエトの左手と、俺の左手にもしつけやがった。

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