第3話 進展なのだろうか
「そこのお嬢さん、猫の小娘を見かけなかったかい?」槍をもったトランプ兵は問う。
どうしよう…。困ったことになった。やっぱり堂々としている方がいいのかな?
「みてませんよ。兵隊さん達はその女の子を探しているようですけど女の子がなにかしたんですか?」
探りを入れながら有守は相手を観察する。絵本のように顔から胴体にかけてトランプでできているが、そのペラペラの胴体からは一般人より太くたくましい腕と足が生えている。言葉にすると気色悪く感じるし、顔という顔がないのに有守はそのトランプの表情もなんとなく分かるし、割と格好いい部類だと思った。
「あぁ。リディアという名なんだが彼女が女王の気を損ねてしまったらしくてな、女王が死刑を命じられたから必死に探しているんだが……どうも見つからなくてな。この付近の街で罪状の条件にいくつか当てはまる少女の目撃情報があったのでこのあたりを捜査しているんだ」
「た、大変ですね。死刑を命じるってどんなことをしたんでしょうね」
「まったくだよ。彼女が見つかるまでお前は働いていないのと同じだから給料は減額だ、とか上司に言われてさ、上も焦っているんどろうけど下っ端の生活も考えて欲しいよ。まぁ彼女が何をしたのかはよく知らないけど風のうわさでは彼女宛に女王が出したパーティーの招待状を無視したとかなんとか」
ちっっっちゃっ。無視するリディアもリディアだけど女王の器小さすぎるでしょ。というかなんでリディアが招待されてるの。何者?ボクっ娘で口数の少ないリディアがドレスを着て女王に謁見している姿を想像したら面白いな。あ、やばい笑いが止まらなくなる。
「ふふふっ」
「ん?どうした?」
「ちょっと彼女を想像したら面白くなっちゃって…。て。ゴホンッ。ちょっと空気が乾燥してきましたね。のども乾燥してきて」
終了。やっちまいましたー
「君、彼女を知っているのか?指名手配人をかばう工作は犯罪になるぞ」
「いや、知りませんよ。喉が乾燥してー」
なんとか言い訳の一つでも言いたいところだがいくら思案しても思いつかない。
「ついでにいうとな、女王から怪しいものは直ちに拘束および尋問、殺害せよという令も出ていてな。これを守らないことも犯罪なんだ。俺たちもそれが仕事でな、おまえらこいつを捕まえろ」
そう言うとこの兵士の後ろに控えていた部下らしき二人が私を捕えようとしてきた。
私は逃げるがすぐに追いつかれて捕まった。兵隊さん達の目はすでにお仕事モード。
「いいか、正直に答えるんだ。彼女を知っているか?」
よし、腹をくくれ佐藤有守。かの有名な人も話せば分かると言っただろう。人にはコミュニケーションというツールがあるんだ。私もある意味巻き込まれたクチだし。
「知っているというか、彼女を追いかけていったらこっちの世界にきちゃって。もとの世界に帰る方法を探す手伝いをする代わりに、兵隊の気をひきつけてくれって」
「「「っっつ」」」 三人の兵隊が同時に息を飲んだ。なにかまずいことを言ったらしい。
「女王勅令第百二十三号により貴様をここで処刑する」
嘘だよね、私まだ若いもん。
兵士はそう言うや否や躊躇など微塵も感じさせずに槍を構えた。
ぶずっ
私は槍を腹部を突き立てられた。血が滲み出る。
痛いかと聞かれれば痛い。めちゃくちゃ痛い。骨折した時の痛みと擦りむいたときの痛みが混ざったものを凝縮した感じ。血ー出てるし死ぬのかな?いい人生だったよ。心残りがあるとすればゆいゆいのメイドコスを見れなかったことだけかな。
と、思っているうちにこの兵隊さん槍抜こうとしてませんか?
ずじゅぶ
私の胴部から錆色に鈍く輝く鮮血とともに槍が引き抜かれる。血は滔々と流れ止まる気配もない。
あぁ限りある寿命は減ったようだ。失血死コースまっしぐら。
長いな。こう、失血死ってさ、意識がなくなってくるんじゃないの?めちゃくちゃ冴えてるけど。あとなんか刺されたあたりが熱い。そろそと走馬灯の上映会か。割と楽しみ。でもなんかトランプさん達騒がしいな。黙れよ。
更に熱くなってきた。視界も白くなってきて
すぅう
光が引いた。あれ?痛みも引いた?お腹を見ると
「ふさがってる!」
どうやら傷は完治したらしい。ピンピンしている。あたりを見渡すとトランプと目が合った。
「っ!…化物め」
うるせぇよ。化物はお前やん。体が一瞬で再生する。ってことはやっぱりここは異世界なんだな。
「うおぉぉぉお〜。来ましたわ。異世界に来たのですわ」
あら失礼。興奮しすぎてなんか語尾まで変わってしまいましたわ。改めてまずは対話と情報収集から始めよう。
「すみませ〜ん。日本ってしってますか?」
「そんなものは知らん。さっさともとの世界に帰れ!おい!こっちくるな。抵抗するならおなごの姿をしていようと容赦はないぞ」
めちゃくちゃ敵視されてる…。誤解だって。まぁいきなり殺しかけた相手が回復するのは怖いけどね。でも「抵抗するならおなごの姿をしていようと容赦はしない」って最初にあなた私を刺しましたよね。
まっすぐな視線を送ると兵士達は少し怯んだ。
もう話しても意味がなさそうなので撤退させてもらう。
「お仕事頑張ってくださいね」
そう言って私は歩いてその場を去る。
しばらく立っても追いかけてくる気配はなかった。
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