10・朝倉香奈

 図書室に戻ると、楡井がわたしのことを待っていてくれた。

 そして、わたしが席を外している間に和可奈が持ってきたという紙袋を、渡してきた。

 わたしは、それを鞄に入れた。


 楡井は、わたしに何も聞かない。

 宗田と何があったのか、何も聞いてこない。

 それなにの、家まで送ってくれた。


 まるで駆け足のように早く落ちる陽に、背中を押されるように、二人で歩いた。

 季節が変わるさまを、わたしは肌で思いっきり感じた。



 薄暗くなってきた玄関で、楡井に手を振った。

 夕暮れを背中に浴びながら、楡井が「また、明日な」と言った。


 だから、わたしも「また、明日ね」と言った。





 夕飯は、家族三人で食べた。

 そして、夕飯が終わった後も、わたし達は眠くなるまで、ずっと話した。


 和可奈から渡された紙袋を、そのまま笙子の机に上に載せた。

 中を覗いて、笑ってしまった。


 ありがとう、和可奈。



 真夜中になった。

 わたしは開けていた窓を閉めると、カーテンも閉めた。

 ……けれど、思い直し、少しだけ開けた。

 そこからは、綺麗な満月が見えた。

 薄雲が、ゆっくりと夜空を動き、淡く月を隠していく。




 わたしはその月を、ベッドに横になりながら、見られるだけ見ていた。


 街は眠っていた。




 静かな、夜だった。

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