9・香奈→王子様orラスボスor騎士②
「楡井君、今日も物理教えてください」
物理の時間の後そう言うと、楡井は頷いた。
「あぁ、ついにここまできてしまったかぁ」
物理の「波動」は、「音」を終え「光」となった。
まさか、ここまで勉強することになるとは。
光はどのように進むか、とか、光の回折と干渉なんて言葉も出てきた。
……物理って、「干渉」が好きだなぁ。
「でも、これは面白いね」
どれどれ、と楡井が教科書を覗きこんできた。
「このしゃぼん玉のところ。なんでしゃぼん玉には虹の色が見えるか、だって」
わたしはてっきり、しゃぼん液の色かと思っていたけど、これも光の干渉によっておこるものだとあったのだ。
しゃぼん液でできた膜に虹のような模様が広がるのも、膜の表面で反射する光と、膜に入って一旦下の面に反射して再び出て行く二つの光が干渉した結果、らしい。
いやはや物理とはすごいねぇ、と感心していると「それ、お姉さんの癖?」と訊かれた。
「癖?」
「その、前髪を手であげるやつ」
「癖、かも。勉強したりすると頭が熱くなるから、おでこを出せば冷えるでしょ」
楡井は、シャーペンをくるりと回した。
「今、見てたよ」
「誰が?」
「宗田先生。お姉さんのその癖、見てた」
ぱっと視線を図書室に向けた。
けれど、ガラスの向こうに、宗田はいなかった。
「……追いかけたら?」
「え? まさか」
シャーペンで、ぐりぐりと円を描く。
まずい、教科書に描いちゃった。
急いで、消しゴムをかける。
「内側と外側からの干渉」
「なに、それ」
教科書の紙は、消しゴムがかけにくい。
破らないようにと慎重に、手を動かす。
「いえるんじゃないかと思って。朝倉と、朝倉のお姉さんにも」
ビリっという音と同時に、消しゴムの下にある教科書の紙が滑った。
……破れましたよ、教科書。
もう、どうしてくれるんですか。
すると楡井は、なにかを決意したような、強い視線をわたしに向けていた。
「朝倉を戻したいのなら」
楡井が、ぎゅっと一旦口をつぐむ。
「お姉さんは……、朝倉のお姉さんは、こっちに強い想いを残しちゃダメだ」
楡井はそう言った後、泣きそうな顔になった。
「……俺、こんなこと言いたいんじゃない」
こんなこと、言いたくない。
……あぁ、そうだよね。
そっと、楡井の頭に手をのせる。
「楡井君は、いい子だよ。本当に、感謝している」
わたしの言葉に、楡井の顔がゆがむ。
君に、いったいわたしはどれだけのものを貰ったか……。
「あのさ。感謝ついでに、1つお願いがあるんだけど―――」
わたしはそれだけを楡井に伝えると、宗田を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます