2・香奈→楡井⑤

 モデルまでして、自分の姿をポスターなんかにしちゃった人が「凄いね」くらいで赤くなる?


「あ、とりあえず。テストのこれが正解っていうか」

 正解っていうか、じゃなくて、正解でしょ。

 100点なんだから、はっきり言いなさいよ。なんて突っ込みはしない。

 笙子しょうこだし。

 しかし、楡井のこの初々しい反応ったら。

 こっちまで、恥ずかしくなってきたじゃない。

 楡井って、やっぱり笙子が好きでしょう。

 うわぁ、恥ずかしい!

 これってつまりが、青い春ってやつですか?

 自分のことじゃないけど、うきうきとしてきた。

 笑ってはいけないけど、顔がにやける。

 笙子はどうか知らないけど、姉として妹がもてるのは嬉しい。


 楡井の片想いか。


 あ、片想いなんて決めちゃいけないか。

 両想い、とか?

 おいこら、笙子、どうなんだい。

 物理どころではなく、呼びかけてしまう。


 ふふ。

 楽しい。



 廊下から響く足音が、わたしと楡井がいる教室の入り口でぴたりと止まった。

 顔を上げると、またまた大型ワンコと目が合った。

「おっ? あ? 朝倉か?」

「宗田、先生」

 自分の顔が赤くなったのがわかる。


 笙子のままで赤面してしまうのは、非常にまずいのに、どうにもこうにもなってしまう。

 ええい! 静まれ、心。


「楡井も一緒か。偉いなぁ、二人で勉強かぁ」

 そう言うと宗田は、教室の入り口から数歩近づいてきた。

「朝倉が楡井に教えているのか」

「いえ、朝倉さんが、赤点をとったのでぼくが教えています」

 楡井が涼しい声で言った。


 あわわわと、なる。

 本当のこととはいえ、楡井も愛想のないことを!


「追試? 朝倉が?」


 宗田から見ても、笙子はそういったポジションなんだ。

 朝倉姉ならともかく、妹が追試? といった、宗田の心の声が聞こえてきそうだ。


「そうか。うん、うん。そうか。まぁ、仕方ないな。楡井、朝倉のことをよろしくな」


 宗田はとびきりの笑顔をわたし達に向けてくると、体、無理するなよ。ちゃんと、食べろよと、わたしに向かって言い、教室から出て行った。

 宗田の登場で、顔が赤くなったわたしは、前髪をあげ手で押さえ、おでこを出して頭を冷やそうとした。

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